雨模様につき、【稲荷崎】

○ きたロールケーキ ページ20

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北くんって洋菓子より和菓子の方が好んで食べそう。いろいろ話していると じいちゃんと話している気分にもなるし。


少しオシャレなカップにストレートティーを注いでトレイに置く。宮の行きつけのカフェを知ってるくらいだから宮たちとはそれなりに仲良いんだろうけど。宮治が無理やり食べさせてそうだなって言うのもある。宮治は結構「好き」を共有したがるタチだから。

「お友だちいっぱいできたぁ！」なんて騒ぐような性格じゃないけど いい人たちと友だちになれたのは心底嬉しい。女の子の友だちも喉から手が出るほど欲しいけど。……うちがこんなの思うのはさすがに厚かましいか。


冷蔵庫を開けてスポンジがピンク色のロールケーキを取り出す。生地自体が甘さ控えめで 中にホイップクリームとフルーツがたくさん入ってる母さん特製のロールケーキ。

これが結構人気があるらしくて、今日みたいに売れ残るのは本当に珍しい。ちょっと悲しいような気もするけど この店の人気メニューを北くんに出せるのは嬉しい。



「北くん おまたせ」

「すまんな、こんな よおしてもろて」

「全然ええって。うちが勝手に言い出したことに北くんが乗ってくれただけやもん」

「……治がな、言いよるねん、ここのプリンは美味いって」

「おお…それは嬉しい」

「伊東が作っとるって聞いた。………俺もまた食わせてな」

「…喜んで」



宮治といい 北くんといい。「また」っていう言葉が うちにとってどれだけ嬉しいものか分かってるのか。プリンなんて何個でもくれてやる。持ってけドロボー。


予想通り北くんの食べ物の食べ方はきれいで 食べ終わった瞬間なんかは常時 無表情そうな北くんがふわっとした笑みをこぼした。



「ごちそうさま。美味かったわ」

「それは良かった。…どうする？もう帰る？」

「そうするわ。長居しても迷惑なるだけやろ」

「そんなことないで、全然。いつでも来たって。そんときはプリン用意しとくから」

「ありがとお。楽しみにしとくわ」



ほな、お邪魔しました と言って店を出ていく北くん。扉が閉まると同時にカラン、と音がして なんだか寂しいような気持ちになった。


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