短編2 (ページ29)

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サイレン 🐈 ページ29

🐈

"私はあなたとの幸せよりも、
自分に降りかかった不幸を消すことを優先してしまいました。
本当にごめんなさい。"

そう書き記してある手紙を彼女から受け取る少し前のこと

その日は彼女の家で会う約束をしており、親御さんへの挨拶を頭の中で考えながら道を歩いていた

住宅街を進み彼女の家に近づくとサイレンの音が聞こえた。"何があったんだろう"と思いながら歩みを進めていると、彼女の家の周りにパトカーが何台か止まっており、近所の人たちが何だ何だと見物に来ていた

自分は彼女に何かあったのかと焦って、人が集まっているところに走って向かった

そこで見たのは、警官に両腕を掴まれて連行されていく彼女の姿だった。身体や顔に血のような赤が付着しており、目は虚ろに地面を見つめていた

なにがあった、そんな状態で彼女は無事なのか

咄嗟のことで何も言えずにいると、彼女はパトカーに押し込められどこかへ行ってしまった。サイレンの赤色の光がやけに眩しく目に入ってきたのを覚えている

その後聞いた話によると、彼女は父親に暴力を振るわれた際に抵抗して鈍器で頭を殴ったのだという。彼女の周りや俺の家族はその話を聞いているからこそ、彼女は何も悪くないと分かっていたのだが、彼女自身の思いや世間の目は違うらしかった

彼女に手紙を書いたのは初めてだった。何を書けばいいのか分からなくて体調は大丈夫なのか、ちゃんと食べて寝ているのか等在り来りな言葉を書き連ねることしかできなかった

そこから少し経って、返事が返ってきたのだが
この書き方的にもう俺とは会ってはくれないのだろうか

正当防衛ならこちらに戻ってこれると思うのだが

その後しばらくして彼女は釈放されても、どこにも姿を現さなかったのだった

生きているのかも分からない、どこにいるかも分からない彼女の安否がただただ気になって。彼女は自分自身のしたことが許せなかったのかもしれない。それでも、彼女に幸せでいてほしいと心の底から願った

俺との幸せなんて後回しでいいから、幸せになってほしいと願ってしまうのは卑怯なのだろうか。自分に"彼女を絶対幸せにする"という度胸があれば、彼女を支えることができたのだろうか

あの日のうるさいサイレンが頭の中で鳴り響いていた