短編2 (ページ26)

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今日は私の書いた作品の展覧会を催しており何故か「先生も展覧会の会場に行きましょう」と言われ、断れずに会場に来ていた。恐らく居らしてくださった方と交流しろ、ということだろうが私には難しいことだった

壁に掛かっている書道が嫌でも目に入ってくる。私は中学校の時に彼に言われた一言を大人になるまで引きづり、いつの間にか書道家として活動していた

クラスメイトのなんの気無しに発した言葉を人生の主軸にしてしまうなんて、私はなんて気持ちの悪い人間なんだろう。彼がただのクラスメイトなのがより気持ち悪さを助長させている

フラフラとしながら会場を歩いていると、とある作品を見てくださっている人の横顔に目を奪われた

すると、その人もこちらを見て少しビックリしたように目を開く

「Aさん。」

そう目を見ながら言われて、その場から動けなくなる。私はこれ以上目が合わないようにと慌てて下を向いた

あぁ、あの時と同じだ。彼と目が合ってしまって、酷く緊張するこの感じ。今すぐここから逃げ出したいのに足が全く動かない

彼がこちらに歩み寄る。私はどうしようどうしようと心の中で繰り返し問答をするだけだった

「久しぶり、覚えて……ないか。中学校同じだったんだけど」

「す、すみません。ごめんなさい。覚えてます」

私が謝ると彼の方から控えめな笑い声が聞こえて

「ほんと？嬉しいな。昔も今も字、綺麗だね」

そう言われて、心がぐちゃぐちゃになった

「ありがとうございます」

床の模様を無意味に目で追う。私は生きた心地がしなかった

「いやいや……。あ、良かったら連絡先交換してくれないかな？」

そう言われて断る術が分からず、私は自分のスマホを生贄のように差し出す

「はい……」

スマホに仕事関係者以外の連絡先が増えるのはいつ振りだろう

「ありがとう。今日は個展、楽しませてもらうね」

そう言って視界の端で彼がひらりと手を振ったので、私は頭を下げてからお手洗いを一直線に目指す

個室に入って一人になると、私の手が震えていることに気付く。久しぶりに彼に会ったこと、名前を呼ばれたことや連絡先を交換してしまったこと、また字を綺麗だねと言ってもらえたことでキャパオーバーになり口で浅い呼吸をする

私は周りに迷惑をかけないようにと必死になりながら手で自分の口を覆い、聞くに絶えない嗚咽を漏らしたのだった