拾肆 ページ14
｢Aはいるかァ？｣
｢はいぃ、ここにいますよ！｣
日は落ちて空が紺色に染まってきた頃、彼は私の屋敷へやってきた。
縁側の方を向くと、彼は座って外の景色をじっと見つめていた。
｢実弥くんはご飯食べたのー？｣
｢まだ食べてねェなァ｣
｢じゃあ食べていく？今肉じゃが作ってるし｣
｢じゃあ食ってく｣
｢わかった！もうちょっと待ってね｣
ごはんもいい感じに炊きあがり、それぞれを皿によそって食卓へ持っていく。
いつの間にか家に上がっていたのはよくある事だし気にしない。
箸を置き、私も畳の上に座った。
｢はい、手を合わせて！｣
｢｢いただきます｣｣
礼儀正しく手を合わせたあと、彼はすぐに肉じゃがを口に入れた。
｢どう？｣
｢やっぱうめェな｣
｢ほんと？よかったよかった！｣
私も口に入れると、ちゃんと中心部分まで味が染みていて安心した。
食べ終わった頃、二人同時に手を合わせた。
｢｢ご馳走様でした｣｣
｢お皿ちょうだい｣
｢ありがとうなァ｣
ちょっとでも礼を言われると、自分が認められているような気がして嬉しい。
流し台に持っていき、皿を洗った。
洗い終わった後、私は少し温かいお茶を二つある湯のみに注いだ。
彼は縁側で空を見ている。
｢月、どう？｣
｢すげェ綺麗だァ。Aもこっちこいよォ｣
私は部屋中の電気を消し、湯のみが乗せられたおぼんを持って縁側へと向かった。
｢…うわぁ！綺麗だねぇ！｣
月明かりが強かったのは、今日は満月だったからなんだな。
｢そういや、月って色んな言い伝えがあるよね｣
｢あァ、言葉なら知ってるぜェ｣
｢言葉？月に関することの？｣
｢あァ｣
｢へぇ〜…なんか素敵だね｣
｢…A
今夜は月が綺麗ですね｣
｢どうしたのそんな改まって｣
｢…知らねェのかよ｣
｢満月が綺麗ですね｣
｢知ってんなら言えよォ……｣
｢あはは、ごめんごめん｣
顔を赤くした彼は額に自分の右手を当てた。
｢…実弥くんって照れ屋さんだよね｣
｢あァ？｣
｢睨んでるのもかっこいいよ｣
｢………やめろォ｣
｢ふふ、ごめんごめん｣
照れている実弥くんが今度は私の方を向き、私をじっと見つめた。
｢A｣
｢どうし｣
｢好きだ｣
｢……ふふ｣
｢…顔赤くしてるじゃねェかよォ｣
今夜は、互いの言葉に照れるばかりでした。
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作者名：すいへ | 作成日時：2021年8月17日 22時
