拾弐 ページ12
｢…屋敷に戻ったはいいものの｣
症状は現れない。実弥くんは｢症状が出るまで一緒にいてやらァ｣と言ってくれたから、机を挟んで目の前にいる。
｢なんも変な感じないなぁ｣
｢時間差で来るんじゃねェか？｣
｢そうかも…
うっ｣
｢おィ！！｣
｢…なーんてね！｣
｢…帰るわァ｣
｢まってまってまってまって…｣
実弥くんを引き止めている途中、急な眠気が私を襲った。
｢はァ！？｣
実弥くんが私を受け止めてくれたのかな。
私はそのまま、眠りに落ちた。
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実弥side
｢…｣
俺の腕の中には、すやすや眠っているAがいる。
こんなにも可愛らしい、Aがいる。
｢…起きんのかァ？｣
胡蝶の薬は何が起こるかわからない。もしこのままずっと眠っている薬なら、胡蝶をぶっ飛ばしに行かねェとなァ。
｢…｣
｢…起きたかァ｣
Aの目が薄く開いた途端、急に俺の顔をじぃっと見だした。
｢…なんだよォ｣
気恥ずかしくて、顔を逸らした。
｢だめ｣
Aの手によって顔を戻され、俺はまたAにじいっと見つめられている。
｢…A、大丈夫かァ？｣
｢…実弥、くん｣
彼女はふわりと可愛い顔で笑った。
｢私ね、実弥くんが好きなんだぁ｣
｢………あァ？｣
彼女の口から飛び出た言葉に、思わず変な声が出てしまう。
｢だってねぇ、優しいし、かっこいいし、口使い荒いけど、相手の事はちゃんと考えてるし｣
彼女の口は、まだ止まらない。
｢私を助けてくれたし、なによりも下の名前で名前呼んでくれたし。あの時、ほんとに幸せだったよ｣
頭のてっぺんからつま先まで、赤い血がじわりじわりと肌をほわほわ染めてゆく。
｢今だって、私に触れてくれること。話を聞いてくれてるとこ。顔が赤いところ。全部ぜーんぶ大好きなの｣
恥ずかしさで顔を逸らそうとすれば、彼女の白い手が俺の顔を優しく定位置に戻してくれる。
｢でも、実弥くんは好きじゃないでしょう？｣
｢…｣
｢全部実弥くんの親切心から来てるものでしょ？実弥くん優しいもん。知ってるよ｣
俺はもどかしい気持ちになって、口を開いた。
｢違ェよ｣
｢…？｣
｢親切心なんかじゃねェ。普通の人にはこんな事しねェ｣
ひとつずつ、丁寧に。
｢全部なァ
Aの事が好きでやってんだよォ｣
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作者名：すいへ | 作成日時：2021年8月17日 22時
