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「、ぉぇ、っ」
先程の部屋から少し離れた静かなトイレに、自分の嗚咽が響く。
「ふっ、ぐ」
吐いても吐いても、脳に直接響く誰ともわからない声。
気持ちが悪くて仕方がないのに。
”ねぇ、なんでなの”
”自分でも理解してるでしょう”
なんでこうなったかなんて、おれだってわからない。
おれが知りたいのに。
『最近彼、微妙じゃないですか?』
『なんかねぇ、唯一パッとしないよね』
誰かが近づいてきている。
声を聞く限り、いつも自分たちのことを親身になって考えてくれるスタッフさん。
だから普通に出ればいいのだろうけど、会話の内容的に、いい話ではなさそう。
そうしているうちに入ってきてしまって、出るに出られなくなった。
『あのグループに俺がいつも優しくしてるからって、ねぇ』
え
まさか、
おれらじゃないよな?
『いつも思ってるんですけどね?』
『なんで”神山さん”が人気あるのか知りたいですよ』
信じたくない
信じたくなかった
信じたくない現実から目を逸らしたくて、彼らがトイレから出ていってすぐに
おれも、メンバーのいる部屋へ戻った。
「____なんかなぁ…」
「__ん、よな」
「__れらの__もっと___して欲しいんやけどなぁ」
扉を開けようとした時に、聞こえてきた会話
さっきまで、おれがいた時まで
こんなに雰囲気は暗くなかったはず
おれのせい、なんかな
おれらの大切なファンの子に嫌われ
優しいはずのスタッフさんに嫌われ
ずっと一緒の、メンバーにまで、嫌われたんかな
あんなに、褒めてくれたん、嘘やったんかな
寂しい、なぁ
っとりあえず、トイレって抜けてきたんやから入らな。
いつもより、扉が重く感じる。
「あっ、神ちゃんおかえりー!」
「もーどこまで行ってたん?!めっちゃ遅かったやん!!!」
のんちゃんがいつものように飛び込んでくる。
みんな、普段と変わらない姿。
さっきのは気の所為、
気の所為やったんや…!
「ちょっと遠くのとこ行っててん!混んでたんよ」
気持ち悪かった、なんて言わない。
にっこり笑って、
いつも通りの、普通の”神ちゃん”の完成。
「そーなんや!じゃあしゃーない!」
「この後ダンスレッスンやで!はよ行こか!」
「おん!」
いつも通りの、おれ。
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作者名:ねむちゃ | 作成日時:2023年11月25日 22時