もしも、の話 × Maison de bonbons ページ20
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「それ、まだかかるの?」
「あとちょっとでおわる。」
ひとり、ひとり、と人が減っていく教室で、
急いでシャーペンを動かしている私に、
英くんが前の席に座った。
「なんで日誌なんか書いてんの。」
「日直だから。」
「もうひとりの日直は?」
「部活。」
チッと舌打ちの音が聞こえてくる。
だけど結局なにも言わずに私の筆箱からシャーペンを一本取り出し、
日誌の隅っこに落書きを始めた。
犬のような、
猫のような、
よくわからない生物に吹き出しで「コン。」と鳴かせる英くん。
なんなんだ、一体。
最後の1行を書き終えて大きく伸びをする。
「帰りの用意するからあと数分だけ待って。」
「できる限りの速さでやって。」
「そこは彼氏として、ゆっくりでいいよって言うところじゃないの?」
「彼氏に気遣わせたいの?」
「できる限りの速さで行います。」
軽く笑った英くんを睨んでカバンに荷物を詰める。
それが済むと体操着を入れていたカバンからネクタイを取り出した。
「付けるの?」
「うん、生徒指導の西岡先生に見つかると厄介だからね。」
首の後ろにネクタイを回して、
クロスさせようとしたところで英くんの手が伸びてきた。
「貸して。」
「自分でできるよ。」
「Aより俺の方が速いから。」
「・・・・・・。」
「嘘、俺がやりたいだけ。」
するり、するり、と静かな音がなるこの瞬間が、
一生続けばいいのに、なんて。
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作者名:名もなきもの x他1人 | 作成日時:2021年3月14日 22時