duex ページ4
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「Aさんは、どうして女優になろうって思ったんですか?」
『ええっと、』
バラエティ番組で、そんなことを聞かれた。
「やっぱりお母さんに憧れて、ですか?」
『そう、ですね。母に憧れてはいました。
でも』
でも、本当は女優になんてなろうとは思ってなかった。
授業参観に来てくれる友達のお母さんが羨ましかった。
誕生日にケーキを作ってくれるお母さんが欲しかった。
眠れない夜、隣で頭を撫でてくれるようなおかあさんが、
気づいたら、あの日の憧れは薄れていた。
もう、あの日見たドラマの名前を思い出せない。
普通の大学を出て、普通の仕事について、普通の生活をする、
それでいいと思っていた。
「でも?」
『なりたいと思えたきっかけは
別の人です』
「別の人?」
『はい。高校時代、す、す..好き、だった人で』
声に出すと、なんだかくすぐったくて恥ずかしかった。
好きだ、と言葉にするのは初めてだったかもしれない。
一度も言えなかったその言葉が、今はなんだかとても軽い。
『高校三年の時に、会えなくなったんですけど、
大学二年の時だから、三年前..?
偶然、似たような人を見かけて。
もしかしたら、また会えるかもしれないって、ちょっと期待しちゃったんです。』
「えっ!それはもしかして!」
.
.
『 彼を探すのが難しいなら、
彼に見つけてもらいたい。なんて 』
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「うわあ!まだまだ青春ですね!羨ましいなあ」
『そんな甘酸っぱい純愛ドラマ、「淫らな彼女」木曜7時からです!ぜひ見てください』
「名前からして純愛じゃなさそう!ちゃんと宣伝して」
『ばれた!不倫から始まるドロドロストーリーです。頑張ります。みてください。』
「いやそれは雑」
.
.
『おつかれ様です。ありがとうございました。』
マンションの自室に戻り、携帯をチェックする。
父から数件ほどラインが来ており、今日の昼ごはんや夜ご飯の写真が送られて来ていた。
『あれ、これ、ヨーコ先輩?』
つい先日、連絡先を交換したばかりの彼女の名前が一番上に表示されている。
一時間ほど前に来ていたそのメッセージは、明日会えないかという急なものだった。
明日は久しぶりのオフだ。
一人でたまっているドラマを見返そうかと思っていたのだけれど。
__もしかしたら、その彼を、見つけ出せるかもしれないよ。
そのメッセージは、あまりにも甘い誘惑だった。
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作者名:睡眠ちやん | 作成日時:2018年9月13日 22時