隣にいさせて【男主】【kzh / 2j3j】

◎俺じゃないなら ページ36

・
kzh side





｢…………俺、なんかしたっけ、｣



鳴る気配のない携帯を、握り締めたまま。ベッドに横になって、目を閉じて、あの人の顔を思い浮かべる。




俺はここ1週間、姫龍さんと会えていない。




お互い忙しいことなんて分かっているから、会うための約束、とかは特にしたことがない。だいたいいつも、夜中か朝方に、仕事を終わらせた姫龍さんから、メッセージと電話が来て。その日の仕事の調子はどうだったとか、たわいもない会話をして。


姫龍さんからの『もう寝る？』の言葉に、うんと言わずに、曖昧な返しをして。じゃあ、1回家帰って荷物置いてから行くわ、って。その言葉に俺は、平然と、分かりました待ってます、って返すけど。いつもいつも。




疲れてるのに、夜遅いのに、俺と会ってくれるんだ。俺の家に来てくれるんだ、って。嬉しくて堪らなかった。のに。


俺はずっと、受け身の姿勢を崩さずに。姫龍さんからの誘いの言葉を、ただじっと待って。あなたと会えて嬉しい、なんて素振りも見せずに。



だから、バチが当たったんだろうか。いや、愛想を尽かされた、の方が正しいのだろうか。



この前、事務所で姫龍さんと鉢合わせて以降、一度も顔を合わせていない。おやすみのメッセージと、仕事の進捗を知らせる連絡は来ているけれど。家に行ってもいいかを問うような"アクション"が一切ない。



あの人からの声掛けがなければ、俺たちは会うことすら、ない。そんな、希薄な関係。その紛れもない事実に、何だか心が空っぽになった気分だった。姫龍さんに会えない毎日に、価値があるとは、到底思えなかった。


どうして。どうして。


繁忙期だから会う時間が取れないのか、会う気分じゃないから会わないのか。それとも。




他に、会いたいひとが、会っているひとが、いるのか。できたのか。


ああ。想像するだけで、胸が痛い。苦しい。いやだ、俺以外の奴と。あなたが疲れて帰ってきて、疲れたを言う相手が、ともに過ごしたいと思う相手が、俺じゃないなんて。



俺を選ばないのならせめて、俺以外も選ばないでほしい。俺はあなたに、何も望まないから。



だから。



あなたは俺以外に、何も望まないでくれ。





・

◎依存（1）→←◎ただなんとなく

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す