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「綺麗な人だったな〜」
輝先輩。サバサバした感じだったけど、話してみると聞き上手ですごくいい人だった。
「明日も会えるかな…」
そんな呑気なことを考えていた。
「葵」
その瞬間、時間の流れがゆっくりになったように思えた。
「智くん」
彼と、その彼女らしき人が私の見た方向に、いた。
.
近い距離ではなかったけど、声は切り取ったようにそこだけはっきりと聞こえた。
「寒くない？」
「うん、大丈夫」
「体壊さないようにね」
そんな会話をしていた気がする。
すると、智くん―――大野くんがこちらを見た。
「！」
私を確かに見て、悲しそうな瞳をした、ようにも見えた。
「なんで…」
なんで、こっちを向いたの…。
ずっと、彼女の方を見ててよ…。
なんで、貴方がそんな悲しそうにするの…。
私と付き合っていた頃と同じ優しさを、いや、それ以上の優しさを、彼女に注いでいた。
「智くん、どうしたの？」
彼女の声に、彼ははっとして「ううん、何でもない。行こ」と言った。
.
へぇ…。彼女さんの名前、葵ちゃんっていうんだ。
顔も私と違ってすごい可愛いし、お似合いだな…。
ショックなのに、頭ではそんなことを考えていた。
冷たい何かが、頬をつたる。
ｻﾞｧ―という音と共に、雨が降ってきた。
傘も差さずに歩いていると、通りすがる人はギョッとして私を見る。
「うぅ…」
頬につたるこの冷たいものは、雨なんだと自分に言い聞かせながら、歩き続けた。
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作者名：きつつき | 作成日時：2019年11月1日 20時
