三十三 ページ3
翔side
俺が9歳の時だった。
雅紀と別れた後、すぐに雅紀は俺のうちへやってきた。
泣きながら…
『お父ちゃんとお母ちゃん、死んじゃった』と。
俺はその時、何故か冷静だった。
泣きじゃくる彼を見て、思い出していた。
5歳の時、父親が自ら命を絶ったことを＿。
幼いながら『死』というものを理解していたのかもしれない。
もう、二度と会えない。
親父は何故死んだのか、その時はそれすらわからなかった。
でも後に母親から聞いた。
親父は、殺人事件の犯人と疑われて、ひどい取り調べを受けて、解放されたと同時に死んだ。
親父がいなかったことを母親に『お仕事で遠くに行ってるの』なんて言われて、それを信じていた。
俺は雅紀を守らないといけない。
俺が雅紀を守るんだ。
親父のようにさせてたまるか。
雅紀「翔…ちゃん？」
雅紀に名前を呼ばれてハッとする。
翔「…トラックの運転手、お前の両親を『殺そう』として轢いたって。
事故じゃない。
殺人事件だよ…。」
雅紀の表情がだんだん強ばっていくのがわかった。
雅紀「…なん…で？
なんでそんなこと…翔ちゃんが…？」
翔「…すまない。
初めは事故として処理されてたらしい。
でもそのトラックの運転手が飲み屋で話しているところをたまたま聞いたんだ…。
『やっと殺せた』って…」
これは事実だ。
トラックの運転手の顔は知っていた。
何度も雅紀に謝りに来ていた。
それにそのトラックの運転手は…
雅紀「…今更そんなこと言われたってっ
俺…どうしたらっ…」
雅紀が立ち上がって声をあげた。
雅紀「俺、警察行って…」
雅紀は言葉に詰まった。
”トラックの運転手を捕まえてもらうよう言ってくる。”
そう言おうとしたんだろう。
でも今は…
雅紀が静かに涙を流した。
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作者名：haru | 作成日時：2020年7月3日 22時
