親かアンタは ページ9
ピピピピ、と喧しい音が鳴り響く。
呻き声を上げて、毛布を頭まで被る。
「傭兵よ、起きろ」
ペシペシ、と弾力のある何かに布団越しに叩かれる。それはとても加減されているものだと分かった。
そもそも、あの邪神が本気で叩こうものならナワーブの身体は今頃ペシャンコになっているだろう。
まだ眠い、と小声で返すとため息が聞こえた。
「この時間に起きるためにタイマーを設置したのでは無かったのか？」
「んー……」
「起きろ」
「ぅえっ！？」
バサッと布団を無理矢理剥ぎ取られ、背中に回った触手で強制的に起こされる。
眠気なんて吹っ飛んだナワーブは、目の前に立つ触手の主を睨んだ。
「何すんだよ！」
「其方がいつまで経っても起きぬからだ」
呆れたようにこちらを見下ろしてくるハスターに舌を打ち、ナワーブは渋々起き上がる。
クローゼットの中から服を適当にポイポイと放り出し、大きな欠伸を零しながら着替えていく。
ナワーブが着替え終わったのを確認したハスターは満足気に頷いて言った。
「朝の食事は作っておいたぞ。早う食べるが良い」
「はいはい…………は？」
きょとんとした顔で見上げるナワーブに、ハスターも首を傾げる。
「朝飯？」
「あぁ」
「アンタが？作ったのか？」
「我以外に誰がいる？」
些か信じられない話ではあるが、確かに開け放たれた扉の向こうから、何か香ばしい香りが流れてきている。
早う食べよ、と急かしてくるハスターに困惑しながら、ナワーブはリビングへと向かった。
リビングのテーブルの上には、確かに一人分の食事が用意されていた。
ハムエッグにサラダ、近いうちに使い終わっておこうと思っていた果物たちが、食べやすいサイズにカットされて小皿に盛り付けられている。
「……これ、アンタが作ったのか？」
「うむ。我も荘園にいた頃は嗜んでいたからな。依代になった礼よ。有難く受け取るが良い」
椅子に座り、フォークで一口すくって恐る恐る口の中へと入れる。
(……普通に美味い)
こだわったのか、ハムエッグの目玉焼きは半熟であった。黄身がいい感じに溶けている。焼き加減も恐ろしいぐらいに丁度いい。
「食べたら顔を洗うといいぞ」
食事を見守りながらそう付け加えてくるハスターに、ナワーブは真顔で言った。
「親か」
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
