声ー5 ページ44
顔の認識は不可能だが、首に掛けたネックレスと服装が張り紙に載っていた情報に酷似していた。
Dはナワーブを害するつもりはないようで、肩に手を添えたまま掠れた声でひたすら助けを求めてくる。
――アンタを助けるにはどうすればいいんだ。
そう問いかけたいが、金縛りにあっている口は動かない。
鼻が潰れそうなほどに悪臭が強まり、Dの声も金切り声に近くなってくる。
――ハスター！どうにかしてくれよ！
ナワーブは必死に頭の中で、ハスターの名を呼んだ。だが返事はなく、粘着質な音も聞こえない。
少しずつ、Dの姿が薄くなっていく。
――ハスター！
『そう急くでない』
もう一度名を呼んだ時、やっとハスターが答えた。声が頭に響いた瞬間、今まで全く動かなかった腕が唐突に動いた。驚く暇もなく、動いた手が女の頬に触れる。肉も腐り落ちた頬はすでに骨が見えていて、土で汚れた骨に触れると視界が真っ白に染まった。
走馬灯と言えばいいのか、様々な風景が視界に次々と映し出されていく。
Dの通う大学や友人の姿、家族の顔、そして――。
鉄パイプを振り上げた真っ黒な人影。
気づけば朝になっていた。
閉められたカーテン越しに太陽の光が差し込み、うっすらと明るくなっている部屋の中。耳鳴りの余韻が微かに残っていることに顔を顰め、ゆっくりと身体を起こす。
金縛りが原因なのか、身体が不自然に固まっている気がして肩に手を置いた。ざらり、と手が何かに触れて驚いて肩から離す。
指先に付着したのは土だった。急いでベッドから飛び降り、洗面所へと向かう。
洗面所の鏡で確認すると、Dに触れられていた肩に、土が手の跡をくっきりと残していた。
「ナワーブ！」
「よう」
多くの生徒で賑わう食堂の隅で、ナワーブは親友と顔を合わせた。大盛りにされたプレートを置き、ナワーブの向かい側に座った親友は早速本題へ入ろうと口を開く。
「知り合いに聞いてみたら、Dのこと詳しく知ってる奴がいるってさ」
「ホントか？誰なんだ？」
「Dの彼氏だって」
知り合い曰く、その彼氏はDと５年以上付き合っていたようで、Dが行方不明になってからあからさまに元気がなくなっているらしい。大学内でも有名なカップルだったそうで、特に彼氏の方がDにぞっこんだったようだ。
今でもDの行方を捜しているようで、警察やDの家族すら生存の可能性を諦めているのに、彼氏だけは頑なにDは生きていると信じているという話が××大学に広がっているらしい。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
