声ー4 ページ43
親友の交友関係の広さは前から知っていたが、改めて驚かされる。スマホをポケットにしまい込み、憂鬱なため息を吐く。
「また面倒なことが起こりそうだな」
『其方には我がおるのだぞ？心配などいらぬではないか』
「アンタがいる時点で心配しかない」
『不敬ぞ』
頭の中でハスターが抗議するようにざわざわと蠢いている感覚がし、背筋にぞわぞわと寒気が走る。
「不満がある時にソレするのやめろ！ぞわぞわする！」
『ならば、少しは敬ったらどうだ』
「嫌だね。つーか、アンタは俺が崇拝するところとか見たいって思うのかよ」
ナワーブの問いかけに、ハスターは考え込む。
荘園にいた頃から生意気な態度が多かったナワーブが、自分を敬うところを想像してみる。
『……気味が悪いな』
「だろ？だから諦めてくれ」
『ぬぅ……』
ため息交じりに言ってきたナワーブに、ハスターは不満げに唸り声を返すことしか出来なかった。
その日の夜、深い眠りについていた意識が突如浮上した。朦朧としながら白い天井をぼんやりと見つめ、横に寝返りを打とうとするも、身体が動かない。
金縛りだ。
朦朧とした意識の中でも、頭は妙に冷静だった。
金縛りにあうのは初めてだが、恐怖はない。ただ身体が動かないというのは不便だ。頭も動かないため、周囲の様子を確認することすら出来ない。
何とか動かないだろうか、と腕を動かそうと試みるも当然動かず、ため息を吐きたくなった時――。
土の臭いが鼻を掠めた。
どくり、と心臓が跳ねる。
視界は天井に固定されているが、ナワーブはあることに気づいてしまった。
この部屋に、自分以外の誰かがいる気配がする、と。
ずるり、と布が床に擦れる音が横から聞こえる。
ざわざわと嫌な鳥肌が立ち、土の臭いをかき消すような悪臭が鼻を衝く。
ずるずる、と擦れる音が間近に聞こえ――。
「たす、け……て」
耳元で、女の声がした。
視界の端からゆっくりと、腐りかけた頭部が姿を現す。頭髪はほぼ抜けきっていて、眼窩は深く窪んでそこにあるはずの目玉はない。確かに目玉はないはずなのに、何故か視線が合っているような気がした。
爪が剥がれ、皮膚も剥けて赤い肉が見え隠れしている腐った手が、ナワーブの肩に触れる。
「……す、け……」
掠れた声で助けを求めてくる女。元は白かったのだろう、フリルの付いた服はところどころが破れていて土や血で汚れている。首からぶら下がるネックレスを見て、ナワーブは確信した。
この女は、行方不明のDだと。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
