声ー3 ページ42
けれど、初めて見た顔とは思えなかった。茶髪のウェーブ掛かった髪が、端正な顔立ちによく似合っている。そして、首に掛けているパールのネックレスが嫌に見覚えがあった。
「……なんか、見たことある気がするんだよな」
『知り合いか』
「いや、知り合いじゃない」
『ほう、では』
――其方が見た夢と関係でもあるのか。
脳内で、邪神がにんまりと笑ったような気がした。
やはり知っていたのかこの邪神は、と舌を打つ。
「アンタ、やっぱり知ってたのか」
『なに、其方があまりにも魘されておったのでな。少し覗かせてもらったのだ』
なら早く言えよ。
言いかけた文句を飲み込み、脳内で言い放つが邪神はクスクスと愉快げに笑うだけだ。
「じゃあアンタなら分かるんじゃねえの、この人の場所」
『細かい場所までは分からぬ。それに、我の考えは其方と一緒だ』
「勝手に俺の考えを読むなよ」
顔を顰めて文句を言うが、この邪神にそんなことを言ったとて改めないことなど、とうに分かっている。
そもそも言ったことを改める性格ならば、ナワーブが度々危険な目に遭うこともないだろう。
『其方が憂いな目に逢うのは、其方自身の体質も関係あるのだが？』
「だから思考を読むな！」
思わず声を張り上げてしまい、慌てて周りを見る。幸いにも誰も通りかかってないことに、安堵の息を吐いた。
ナワーブはもう一度、張り紙をよく見る。記載されている大学の名前を見て、ポケットからスマホを取り出した。
『あの男にかけるのか』
「だから……もういいや。アイツなら、××大学にも知り合いがいるかなって思ってさ」
脳裏に浮かぶのは、豪快に笑う親友の姿。
彼は交友関係が幅広い。もしかしたら、Dが通っていた××大学にも知り合いがいるのではないか、と考えたのだ。
呼び出しを始めたスマホを耳に当てる。2コール目で、親友の「もしもし？」という声が聞こえた。
「よう、今平気か？」
〈おう、大丈夫。なんかあったのか？〉
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
〈聞きたいこと？〉
不思議そうに返してくる親友に、Dの話を切り出す。
ふんふん、とスマホの向こうで相槌を打ちながら聞いていた親友はナワーブの話を聞き終わると少し黙った。
〈なるほどな、分かった。あっちにも知り合いいるから聞いてみるわ！返事返ってきたら明日教える！〉
「助かる、悪いな」
親友に礼を言って、通話を切る。やはりナワーブの予想は正しかった。しかし、全く関わりのない大学にも知り合いがいるとは。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
