声ー2 ページ41
ザク、ザク。
音がする。
ザク、ザク。
これは何の音だろうか。
ザク、ザク。
土の臭いが鼻を掠める。
ザク、ザク。
「た す け て」
頬に触れる、氷のような冷たい手。
驚いて目を開くと、眼前に顔が腐り果てた女の姿があった。既に顔の右半分は崩れていて、肉と骨が見えている。肉が腐ったような、鼻をつく強烈な悪臭に、えづきそうになった。
「た、す て」
少しずつ視界が暗くなっていく中、女の悲痛な叫び声が暗闇に響き渡り、腐りかけた首からぶら下がるパールのネックレスが、鈍く光を放っていた。
「――……起きよ、ナワーブ」
「ッ……!」
ぺしん、と軽く頭をはたかれ、急激に意識が浮上する。
ハァ、ハァと荒く呼吸を繰り返すナワーブは歪む視界に黄色と紫を捉えた。
「随分と魘されておったぞ」
「……起こし方、もうちょっとあっただろ」
「声を掛けても起きぬからだ」
「だからって触手で叩くなよ……」
ゆっくりと起き上がり、涙が滲んでいる目をゴシゴシと荒く擦る。
ベッド脇から生えてうにょうにょと動いている触手と、触手の主を軽く睨みつけながらため息を吐いた。
「早う支度をせよ。遅れるぞ」
「わかってる」
夢見が悪かったせいか疲れが残っている身体を引きずって、ナワーブは朝食を口に突っ込むと足早にマンションを後にした。
「また明日な!」
「おう、じゃあな」
退屈な授業を終え、サークルに向かう親友と別れたナワーブはのんびりと帰路を歩く。
肌寒い風が頬を撫で、首に巻いたマフラーを口元にまで引き上げた。
「さみ〜。今日はシチューにでもするか」
『あの白いスープか』
「おう、冬に食べるのが一番美味いんだよな」
周りに誰もいないことを確認しながら、ナワーブは声を潜めてハスターと言葉を交わす。
『食材はあるのか?』
「あー、人参切らしてたからそれだけ買いに行くか……ん?」
冷蔵庫に残っている食材を思い出していたナワーブは、ふと視界の隅に映ったものに足を止めた。
電柱に、張り紙がある。行方不明者を探しているという張り紙だった。
『どうした』
「……いや」
張り紙をまじまじと見つめる。行方不明になっているのはDという女で、約半年前から行方が分からなくなっているらしい。年齢はナワーブと同じだが、顔写真の下に書かれている情報を見るとナワーブの通っている大学とは別のところに通っていたようだ。
住所は今住んでいるマンションからそこまで離れた距離ではないものの、Dに会ったことはない。
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作者名:モノクロ饅頭 | 作成日時:2023年11月4日 20時