声 ページ40
息苦しい。
狭い空間に閉じ込められているかのような圧迫感を全身に感じる。鼻をかすめるこの臭いは、土だろうか。
身体を動かそうとしても、腕や足はピクリとも動かなかった。
視界は暗闇に包まれていて、全身を包む生暖かな空気に気持ちが落ち着かない。
息苦しい。
「――……」
暗闇の中から、何か聞こえた。小さな虫の羽音のような、本当に小さな音。
それが言葉なのかもわからなかった。
何とかして身体を動かそうとしても、やはり動かない。
「――……、て」
また聞こえた。言葉だ。
誰かが何か言っている。しかし、何を言っているのか聞き取れなかった。
相変わらず視界は真っ黒で、息苦しさが段々と強くなってくる。
「――……す、……て」
高い声、女性だろうか。
ところどころが途切れて聞き取りにくいが、かろうじて声の主が女性だということがわかった。
依然として身体は動かず、視界も変わらない。
圧迫感と土の臭いが、強まってきた気がする。
キィン、と耳鳴りがして――。
「――た す け て」
耳元で、鮮明な女性の声が聞こえた。
ハッと目を覚ます。
荒い息を落ち着かせ、必死に息を吸う。
ゆっくりと上体を起こすと、こめかみから汗が伝った。
「随分とぼんやりしておるな」
「え？」
休日の昼間、ソファーに座りながらぼんやりとテレビを眺めているナワーブの隣に座っていたハスターが、唐突にそう言ってきた。
ナワーブはきょとんと目を瞬き、ハスターを見上げる。
「何だよ、唐突に」
「気づいていなかったのか？今日は朝からぼんやりしていると言っておるのだ」
ハスターの指摘に、ナワーブの顔が曇る。確かに、今日は朝から集中力が欠けていた。
ぼんやりとしていたせいで包丁で指を軽く切ってしまったし、いつもなら当たるはずのないテーブルの角に腰をぶつけて地味に痛かったり、コーヒーをコップから溢れる寸前まで淹れてしまったり。
ハスターに声を掛けられなければ、確実にコーヒーはコップから溢れていただろう。
「其方がそこまで呆けるとは珍しい。何ぞあったか」
「…………いや、別に何でもねえよ」
そもそも、自分に寄生(本神？が言うには共生らしい)をしているハスターならわかっているのではないだろうか、その原因を。
ちらりとハスターを見やるが、当の邪神は興味を無くしたのか、既にテレビに集中していた。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
