ずっとこの日を待っていたの ページ35
人の気配を感じない校舎内は、微かな太陽の光が差し込まれていても薄暗い。
それに、外より酷く肌寒く感じて、ナワーブは身震いした。
「ここって人が滅多に寄り付かないから、常に静かなんだよね。私、こういうところ好きなんだ」
にこやかに笑いながら足を進めていく女。その女より数歩離れた場所を歩きながら、ナワーブは校舎内を見て回る。
旧校舎と言えども、中は随分と広い。本校舎よりは狭いが、それでもこの中でたった一冊の本を探し回るのは大変だろう。
「ふふ、ナワーブくんって本当に優しいね。私、あなたと話したこと滅多にないのに。あなたが優しいって噂話をしてる女の子達がいるの、知ってる？スポーツも上手くて優しくて、そんなあなたを尊敬してる子はたくさん……」
「なあ」
嬉々として一方的に喋る女の言葉を遮り、ナワーブが口を開いた。
マシンガンのように話していた口をピタリと閉じた女が振り返る。
「……お前、ホントに本を隠されたのか？」
「……」
何も言わない女を、ナワーブは見据える。
「お前言ってただろ、本を隠されたのは午前中だって。でもさ、それが本当ならおかしくないか？」
なんで、校舎の周りや裏口付近に、俺達以外の足跡がないんだ？
早朝まで降り注いでいた雨によってぬかるんだ地面には、ナワーブと女の足跡がくっきりと残っている。
女の言う話が本当なら、ナワーブ達以外の足跡があっていいはずだった。
だが、旧校舎の周りはおろか立ち入り禁止テープ付近にすら、他の足跡なんてなかったのだ。
「何を企んでいるのかは知らねえけど、俺はもう……」
「だって、ここに連れてこないと、アレが着いてくるじゃない」
帰る。
その言葉を言う前に、女の食い気味な言葉が被せられた。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
