何かがおかしい ページ34
「ハスター？」
思わず振り返るが、ハスターの声はしない。
今の、布がちぎれたような音は何だったのだろう。
立ち入り禁止テープへ手を伸ばそうとしたナワーブの肩が、ガッと掴まれた。
「どうしたの、ナワーブくん」
「っ、いや……何でもない」
女子とは思えぬほどの力で肩を掴まれ、ナワーブは驚きつつも平然を装う。
女はニッコリと笑みを浮かべて、ナワーブの手首を掴んだ。
「日が暮れちゃうと危ないから、早く行こう」
「あ、あぁ……」
手首を引かれ、ズンズンと進んでいく女に慌てて着いていく。
心の中がザワついているのは、気のせいだろうか。
「……あぁ、忌々しい」
立ち入り禁止テープの手前、ハスターの苛立ったような声が木の影から響いた。
「本って、いつ隠されたんだ？」
「午前中だと思う。トイレに行って帰ってきたら、本がなくて。探してたら、いじめっ子グループの子に言われたの」
あの本なら、旧校舎に隠してきたって。
前日の雨でぬかるんだ地面を歩き、旧校舎の裏口へと向かう。
正面玄関は鍵が掛けられているが、裏口の扉は立て付けが悪いのか鍵が閉まることなく常に開いているらしい。
小さな窓が着いている扉のドアノブを回し、引いてみればあっさりと扉が開く。
ギギギ、と耳障りな音を立てて開いた女は、さっさと中へ入って行った。
ナワーブは中へ入る前に、周りを見回す。
旧校舎は鬱蒼とした木々に囲まれていて、早朝まで降っていた雨のせいでまだ湿気が残っている。
木々の隙間から差し込んだ太陽の日差しが、微かに割れた窓ガラスを通って校舎内を照らしていた。
「ナワーブくん、早く」
中から急かしてくる女の声が聞こえる。
ナワーブは暫く辺りを見回した後、校舎内へと入った。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
