久しぶりに声を聞いた ページ33
ナワーブの通っている大学の敷地内には、数年前に使われなくなった旧校舎がある。
取り壊されることも無く、当時の面影を残したままの旧校舎には度々問題児の生徒が
女に引き連れられ、ナワーブは重々しい雰囲気を放っている旧校舎を見上げる。
女のお願いというのは"旧校舎に隠された本を一緒に探して欲しい"というものだった。
「ごめんね、手伝わせちゃって……」
「あー、気にすんなよ」
申し訳なさそうに目を伏せて謝罪をしてくる女に、ナワーブは苦笑を返す。
どうやら女が大人しい性格なのをいいことに、いじめっ子グループの一人が彼女の持っている本をこの旧校舎に隠したらしい。
隠された本は大事なものらしく、早く取り戻したかったと。
「これ、どっから入れるんだ？」
「多分、隠した人は正面じゃなくて裏口から入ったんだと思う。こっち」
張り巡らされた立ち入り禁止のテープを潜り、先導する女に続いてナワーブも入ろうとする。
『ナワーブ』
「っ……！」
久しぶりに脳内に響いた低い声に、ナワーブは肩を跳ね上がらせた。
驚きで脈打ち始めた心臓を服の上から抑え、ナワーブは苦い顔をする。
『久しぶりに声出したと思ったら、なんだよ』
『あの女について行くのはやめよ』
『はあ？なんで』
『あの女について行ったところで、其方に得は無い』
淡々と話してくるハスターに、ナワーブはカチンときた。
「俺は、損得でアイツの頼みを聞いてここに来たわけじゃねえよ」
『やめよ。入るな、ナワーブ』
「断る」
引き留めようとするハスターの声を振り切り、ナワーブが立ち入り禁止のテープを潜った瞬間。
ぶつん、と何かが切れる音がした。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
