なんで自分なのだろう ページ32
ハスターが姿を見せなくなってから、一週間が経とうとしていた。
朝食は必ず用意されているものの、一度も姿を見せることはなく、声をかけてくることもない。
ハスターの分の夕食を作れば、ナワーブが風呂に入っている間に食べているらしく、洗面所からリビングに戻ると綺麗に洗われた食器がキッチンに置かれていた。
ハスターの干渉がなくなってからというもの、ナワーブが怪現象に遭遇することはいつの間にか無くなっている。
実に喜ばしいことだ。
これで危険なものを視界に映すことは無いだろう。
そう、喜ばしいことのはずなのに。
窓際の席で、ぼんやりと外を眺める。
ここ最近は肌寒い日が続いていたが、今日は比較的暖かな日だった。早朝まで降っていた雨はすっかり止み、日差しはぽかぽかと暖かい。
いつもなら暖かな太陽の日差しに照らされ、昼寝にでも移行するところだが、眠気を感じなかった。
いつの間にか授業は終わっており、静かだった教室は今や話し声で溢れている。
(今日の夕飯どうすっかな……)
頭の中で夕食の献立を考えていると、背後から控えめに声をかけられた。
「あ、あの、ナワーブくん」
「ん？」
振り返ると、同じクラスの女が立っていた。
一つに結われたブラウンの髪が、窓から吹き込む風にはためいている。
確か、ナワーブより離れた席でいつも本を読んでいる女だ。一人で大人しく過ごしている姿をよく見かけていた気がする。
ナワーブはほとんど関わったことがない。
そんな彼女が、自分に何の用なのか。
灰色の目を忙しなく動かす女に、ナワーブは首を傾げる。
「なんか用か？」
「あ、あの、ごめんね突然……実はお願いがあって」
「お願い？」
さらに首を傾げるナワーブに、女はこくりと頷いた。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
