引き返した方がいいと思うのだが ページ26
何年も放置された廃墟、と言われていたが中はさほど荒れておらず、不気味な程に小綺麗だった。
日の当たりにくい場所ということもあり、家の中は薄暗い。
各々が持ってきた懐中電灯の明かりを頼りに、家の中を見回る。
「ホコリくさ〜い」
「でも、なんか綺麗だよな。廃墟にしてはさ」
「誰かが住んでたりして」
「やめてよ！」
固まりながら移動するS達と数歩離れた場所で、親友と共にリビングに当たる部屋を覗き込む。
青色のカーテンが閉められていて、夕日の光が微かに当たるのか淡く光っているように見える。
机の上には新聞紙が広がったままになっていて、近くにはテレビのリモコンも放置されていた。
「……なんか、生活してたら突然廃墟になりましたって感じだよな。外に自転車もあったし」
「あぁ。それに、ソファーとかの家具も置きっぱなしだ。引っ越しってわけではなさそうだな」
そうなると、本当にこの家に住んでいた一家は夜逃げしたのだろうか。
次に覗き込んだのは風呂場だ。
ガラス張りの扉だったのだろう。浴室へと続く扉には骨組みだけが残っており、床にはガラス片が散らばっていた。ガラス片を踏んでしまっては危ないため、風呂場は覗き込むだけにしておく。
「なあ、何かあったか？」
親友がキッチンから戻ってきたS達に声をかける。
S達は「何も無かった」と、どこか残念そうに言った。
一階は全て見終わったため、S達はそのまま二階へと繋がる階段を登っていく。
『ナワーブ』
ピタ、と続いて階段を登ろうとした足を止め、ナワーブは脳内でハスターに返事を返す。
(なんだよ)
『この先に進むのは、あまり良くない』
(……あぁ)
頭にあの兄妹がチラつく。
確かに、このまま二階に行くのは抵抗がある。
S達は既に上がりきっていて、「気味わりぃ〜」と言っている声が聞こえた。
「ナワーブ、大丈夫か？」
突然止まったナワーブを心配した親友が、顔を覗き込んでくる。
それに大丈夫だ、と苦笑を返す。
(……とりあえず、行ってみるしかない)
『まあ、止めはせぬが。良いか、我が逃げよと言ったら必ず従え』
(わかった)
不安はあるが、今はハスターの言葉を信じるしかない。
ナワーブは意を決して、親友の後に続いて階段を登っていく。
後ろから小さな足音が聞こえたのは、気の所為だと思うことにした。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
