廃墟 ページ24
いつもの帰り道をただ歩いて行く。
時々石を踏むような感覚を感じつつ、ナワーブは無心でマンションへと向かっていた。
ふと、ナワーブはその足をピタリと止める。
ゆっくりと顔を上げ、深くため息を吐く。
『ここか』
「そう。ここがその廃墟」
ナワーブの目の前にそびえ立つのは、赤い屋根の家だった。
昼間、親友が言っていた有名な廃墟である。二階建てのそれなりに大きな家だ。
この家には謎が多い。住んでいたのは若めの夫婦と二人の子供。
近所の人達によると、家族仲は良かったらしい。だが、ある時期にぱったりと一家は姿を現さなくなったとか。
夫婦の車だけが消えていて、子供の自転車や玩具はそのままだったらしい。引越しをした様子もなかった。
噂では夫婦が良くないことに手を染め、この場所に住み続けることが困難になったため夜逃げしたのではないかと密やかに言われている。
しかしそれは一つの噂に過ぎない。真実を知る者は誰もいないのだ。
「なあ、ハスターはどう思う？この家」
『ふむ……』
暫しの沈黙の後、ハスターの声が聞こえる。
『念は感じる』
「念？」
『うむ。だが、いつぞやの怨念とは違う。これは……悲しみか』
「悲しみ……」
ハスターの言葉をオウム返しのように呟きながら上へと視線を向けたナワーブは、その目を驚愕で見開いた。
二階にある窓、ボロボロになったカーテンの間から、幼い子供がこちらを見ている。
男の子と女の子。女の子は男の子よりも幼く見える。兄と妹だろうか。
だが、そこには目がない。真っ黒な空洞が、ナワーブを見つめていた。
言いようのない恐怖に襲われ、思わず足が竦む。
『ナワーブよ』
「っ……」
ハスターの声で、意識が引き戻される。
その頃には既に、二階にいたはずの兄妹の姿は消えていた。
「……ハスター」
『よい、言うな。帰ろうぞ、ナワーブ』
「……おう」
家が気になるが、これ以上ここに留まりたくもない。
背後から刺さるような視線を感じながらも、ナワーブは振り返らずにマンションへと急いだ。
あぁ、一緒に行くなんて言わなきゃ良かったかもしれない。
ナワーブは後悔の念に襲われた。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
