(新)邪神に憑かれるとかツイてねえ (ページ12)

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泣きそうになったページ12

━集中出来ない。

動かしていたペンをピタリと止め、机に転がしてため息を吐く。
原因は言わずもがな、あの男の背後にいる幽霊(？)の存在だ。
ナワーブよりもいくつか前の列に座った男の背後で、相も変わらず女は立っている。
こちらに背を向け、少し俯きがちに見えるその姿は透き通っていて、向こうにいる教授が見えるため、やはりこの世のものでは無いと思い知らされた。
男は変わらず女が見えていないようで、隣に座る彼女と小声で何か話している。

(良いよな、お前らは見えなくて)

思わず恨めしげに男を睨んでしまう。自分だって好きで見ている訳では無いのに。
ぼんやりと講義を聞き流していた、その時。
女の首が180度回った。
まるで首が回る玩具の人形のように、簡単に。
女と目が合った。
余りに唐突すぎて、目をそらすことも出来なかった。
にたり、と女が醜悪の笑みを浮かべる。すると女はゆっくりと男から離れ、ナワーブの席へと近づいてきた。
ナワーブは決して女を目で追わなかった、というよりも追えなかったという方が正しい。
ひたひた、と裸足で歩く音とハァハァという荒い息遣いが鮮明に聞こえる。
ひた、と歩く音がナワーブの背後で止まった。
視界の隅に、金髪が映る。
耳元で、息遣いが聞こえる。

「私のコと、見えテルん、でしョ？」

人のものでは無い、ノイズがかったような声が耳元で聞こえた。
ナワーブは顔色を悪くしながら、ずっと前を見据える。 耐えろ耐えろ、と自分に言い聞かせて、消えろ消えろと念じた。
その願いが届いたのか、視界から髪の毛は消え、足音は遠ざかっていった。
ナワーブはホッと息をつき、強ばっていた身体から力を抜く。

これでもう大丈夫だろうと思っていた。この時は。