可愛い幼馴染はもういません。【川西拓実】

19話 ページ19

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「……」

「え、なに。どうしたの」

「…、…っ」

「A？」




さっきまでムスッとしていた拓実が
心配そうに顔を覗いてくる。


その優しい声とか、仕草で

我慢していた蓋がパカッと空いて

目から滝のように溢れてしまった。




「えっ、ちょ、」

「ぅ〜〜〜っ…！！」

「ちょっと、何急に泣いてんの」

「わだじだっでわがんないぃ〜〜っ…！」




ぼろぼろと溢れて顎に集まり、
止まることなく流れていく。


拭う気力なんか沸かなくて、
どうしたら収まるのか分からなくて。



困らせたくないのに。






「…あぁもう、」

「っ、！」






いきなり手首を掴まれ、引き寄せられる。


そのまま胸元に押し付けられて
大きな手が後頭部に添えられた。


そのまま優しく、ぎこちなく、ゆっくり撫でられる。





「ぇ…」

「何も言わなくてええから。
とりあえず泣きやんで」

「うん…ごめん…」




ぽん、ぽん、なで、なで。


ぎこちないリズム。



あんなにスマートにご飯をごちそうして
くれてたくせに、

やりにくそうな手の動きに心が温かくなる。






……あぁ、そうか。



拓実に別れたことを言ったら、

たぶん私、泣いてしまうことが分かっていたんだ。




この優しさに、温かさに、


悲しかったことも悔しかったことも

我慢できなくなるんじゃないかって。




どこかで気づいていたのかもしれない。








「…泣きやんだ？」

「ん…ごめん、シャツ、濡れたかも」

「弁償」

「うぐ…」

「ふはっ、嘘に決まっとるやろばーか」







ゆっくり体を離す。



拓実は怒ってもいなくて、慌ててもいなくて、

ただどこまでも優しくて温かい目で。




昔から、拓実のこの優しい顔が好きだった。



ふざけて無邪気なときも、

先生に叱られておどけるのも、

真剣に打ち込む姿もあって、


でも時々二人で帰るときに見せてくれる顔。




今ではずいぶん大人びて見えるけど、
昔から何も変わってない。









「……たっくんは、いつも優しいね」


「……別に、誰彼構わず優しくしてるわけちゃうよ」


「そうなの？」


「うん」


「それはなんか、意外かも」


「Aだけ」


「へ？」


「俺が優しくするの」


「え……」


「……」









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紺が、空を埋めていく。









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