露呈しないように. ページ9
. Aside
「譜久村さんの名前も、可愛らしくて素敵やな。……なぁ、俺ら同級生やで？今から敬語使うんなしな」
重岡くんがそう言ってくれた
両親は、どんな想いで“A”って名付けたんだろう
「ほんまや、全然気づかんかった」
「いや、普通気づくやろ。どんだけ無意識に生きてんねん」
「譜久村さん、お弁当食べるの待っててくれたん？」
神山くんが私の顔を覗き込むようにして、優しく聞いてくれた
意外に近くて、ちょっと恥ずかしい
「あっ、うん」
「そっか、じゃあ食べよか」
重岡くんと神山くんは、私たちの少し上の段に座った
「だぎゃーす」
「流星、ちゃんといただきますって言いや」
「なぁ譜久村さんのお弁当って、お母さんが作ってはんの？」
メロンパンを頬張りながら、重岡くんが聞いてきた
あの人とは、もう何年も一緒に住んでない
あんな人をお母さんって呼ぶのも嫌
詮索されるの面倒だし、ごまかそう
「今日は、自分で作ったの」
「へぇ、家庭的なんやな。唐揚げとか見た感じ冷凍やないし、卵焼きも整ってるもんな」
私が小学生のときから、あの人は家にいなかった
仕方なくやってるだけだったけど、褒められて嬉しくなる
「神山くん、お料理するの？」
「おん、俺の家兄妹多くてさ。よくおかんの手伝いしてんねん」
「神ちゃん家の唐揚げは、絶品やで」
そう言いながら重岡くんは、2個目のパンを食べ始めた
「あっそうや、これ」
重岡くんが出したのは、パックジュースだった
「このいちごミルク人気なんやで。やるよ、ほら」
「えっ!?」
いきなり投げるから受け取れなくて、階段の踊り場まで転がっていった
「ふははっ、どんくさいな」
「だって重岡くんが、いきなり投げるから」
いちごミルクを拾い、持っていたタオルハンカチで拭いてからストローをさして、飲み始めた
振り向くと藤井くんと目が合った
あまりにも、じっと見てくるから気になる
「えっ、何？」
「……ハンカチ、持ってんねや」
「お前、久しぶりに喋ったと思ったらなんやねん。女子やねんから、ハンカチぐらい持ってるやろ」
「譜久村さんごめんな、これ流星の通常運転やねん」
藤井くんって、ちょっと天然？
もっとクールな感じかと思ってた
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作者名：楓 | 作成日時：2023年8月18日 14時
