【募集企画】神々の住む世界・壱【小説】

寄り道・霜村真白side ページ33

「今日の仕事は終わり……ですね」
　溜め息混じりにこう呟き、彼女は椅子から立ち上がった。
　窓の外からは、沈みかけた夕日と、その光で真っ赤に染まる雪ノ国が見える。
「今日は何処かに寄り道でもして行きましょうか……」
　神々の住むこの千秋楽という世界のあちこちに思いを巡らせつつ、彼女は仕事場から外へと出た。

「そう言えば……千春姉様が仰っていた “どの国にも属さない地” には、まだ行った事がありませんでしたね」
　放浪癖のある姉、風早千春がいつか言っていた “どの国にも属さない地” と言う言葉を不意に思い出した彼女は、記憶を頼りに歩き始める。

「 “どの国にも属さない地” には、確か無所属の神々が住んでいらっしゃるのですよね……」
　独り言を連ねながら歩みを進める彼女の藍色の羽織を、夕方の涼しい風が揺らした。
　黒い簪に付いた鈴がチリンと鳴り、その音に反応するかのように、遠くで鶴の鳴く声がする。

　無所属の神々に思いを馳せていた彼女は、ふと口を開いた。

「あの方は……お元気なのでしょうか……？」

　その独り言を隠そうとするかのように、もう一度、遠くで鶴の鳴く声が響いた。

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