ありがとう ホークス's side ページ21
「…？」
ぼやけた景色の中にAの姿がある。
ここは…そういえばAの部屋だ。
昨日はここに泊まって…
「…っ、」
頭が割れそうだ。気分も悪いし視界も判然としない。
こんな感覚久しぶりだ。
あぁ、なんでよりによって今なんだ。
霞掛かった頭でなんとかこの症状を対処する方法を考える。
そういえばAの匂いがする。
近くに居るはずだ。
でも頭が動かせない。
「……うぅ、」
無理に動こうとしたせいか、身体が分かりやすく悲鳴を上げる。
近くに居る彼女に助けを求めることすら出来ない、まるで孤独だ。
こんな状態だが、なぜか目頭だけは熱くなった。
ぼやけていた視界が更に不明瞭になっていく。
「(…たすけて、)」
瞳の端から溢れ出した涙の粒は、目尻を伝って下へ流れていく。
生暖かい感覚がやけにはっきりと感じられるせいで余計に気持ちが悪い。
自分の世話が自分で出来ずに泣いている…まさに赤ん坊だ。
「(…もう嫌だ、)」
そう思って更に大粒の涙が流れ始めた。
「…！」
不意に何かに包まれるような感覚があった。
温かい…
「大丈夫…大丈夫だよ、啓悟。」
そっと俺を抱きしめながら頭を撫でてくれるその声に、まるで母親にでも縋り付くかのごとく身を預ける。
なんだか物凄く安心する。
これが俗に言う“愛情”というやつなのだろうか。
今ならお母さん子の子供の気持ちが分かる。
「(ずっとこうしてもらっていたい。)」
何も言わずただただ涙を流す俺に、たたただ優しい言葉を掛けてくれるA。
「ず〜っと傍に居るから。」
俺にとってそれは魔法の言葉だった。
───あれから何時間そうしてもらっていたのか分からない。
気が付いたら寝ていて、目が覚めるとすっかり身体が軽くなっていた。
「…あ、寝てる。」
目が覚めた俺とは対照的に、面倒な彼氏の看病で付きっきりだったAは部屋の隅で丸くなって眠っていた。
「よっと……相変わらず軽いな。」
起こさないようにそっと抱き抱えると、Aはいとも簡単に持ち上がった。
そのまま布団に寝かせ、Aが自分が寒いのもお構い無しに俺に掛けてくれた毛布を、今度は俺が掛けてあげる。
すやすやと無防備に眠るその姿がやっぱり愛おしい。
「…ありがと。」
そっと、Aのおでこにキスをした。
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作者名：浦玖珂 咲希 | 作成日時：2023年4月3日 9時
