勝ち負け Your side ページ15
ホークスに群がる大衆の壁をくぐり抜け、人気のない路地に入る。
ポケットから業務用のスマホを取り出し、予めピンで固定していた連絡先に電話を掛ける。
「もしもし、こちらホークス…」
「啓悟、私は先に帰って待ってるね。」
「えっ、」
「あぁそうそう、これ、“緊急連絡”だから。早く駆けつけて来てね。ヒーロー。」
相手が何か言う隙も与えず電話を切る。
これで2回目だ。
後で反省文でも提出しよう。
日頃の運動不足なんてお構い無しに自転車を全力で漕ぐ。
ホークスがあの大衆の輪から抜け出して飛んで来るまでの時間と、私がここから全力で自転車を走らせ帰宅するまでの時間、どちらが速いだろうか。
冷たい風が耳元を吹き抜ける。
多少なりとも息が上がろうと関係ない。
「(…なにこれ、楽しい。)」
まるで鬼ごっこでもしているような感覚だった。
後ろから来るのは鬼。
心臓がドクンと脈打っている。
心拍数の上昇と連動して、胸の高鳴りも大きくなる。
「絶対に勝つ！」
なりふり構わず駐輪場に自転車を停め、猛ダッシュで階段を駆け上がる。
エレベーターなんて使ってられない。
「はぁ、はぁ、」
自分の息遣いなんて久しぶりに聴いた。
なんとか5階、6階とペースを落とさず上がっていく。
そして7階……
「遅かったね。A。」
こうして“まだ一般人の私”とヒーローの決死の鬼ごっこは幕を閉じたのだった。
「…はぁ、はぁ、…なん、で？」
「ふはっ、笑 まずは深呼吸しなよ。」
言われた通りに息を整える。
私が必死に心臓の鼓動を制御しようとする数秒間、啓悟は何も言わずにこちらを見ていた。
しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは啓悟だった。
「俺のお姫様が緊急連絡だなんて、死ぬ気で駆けつけるに決まってる。」
「えっ」
「Aに何があっても、俺が一番に駆けつける。」
あぁ、そっか、
本当にこの人には敵わない。
今一度そう確信した瞬間だった。
すき焼き ホークス's side→←嫉妬されてる？ Your side
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作者名：浦玖珂 咲希 | 作成日時：2023年4月3日 9時
