《アキラ》強くなれ、強くあれ《狂気山脈後日譚》 ページ19
*
あの日から2年後。
静まり返った山奥に、2人の若者がスプレー缶を持ってやって来る。
「いやーいい場所見つけたなw」
「ここには人はいないし、思いっきし俺達のアートが楽しめるからなぁ」
「そうそう。こんなボサボサ山に俺達が価値を与えてやれるんだか……いっ、てぇ!?」
若者の1人が足元を見ると、そこには1匹の子ダヌキがいた。足元の傷から察するに、足を噛まれたのだろう。
その若者は持っていたスプレー缶を使い、そのタヌキの顔に塗料を塗る。
「おらっどけクソタヌキ」
「うわひでぇことすんなぁw」
「ったくふざけんなよー。さてと、早速やるか」
「そうだな、カラフルに染め上げてやろうぜ!」
そうニヤリと笑みを浮かべる男の頬に、突如切り傷が現れる。
「……へ、ぁ?」
「なっ、どうした!?急に頬が切れて──」
そうやってもう1人の男が自分の頬を指差した瞬間、彼の足元の地面にひとつの斧が突き刺さる。あまりにも大きな衝撃だったものだから、男は腰を抜かしてその場に座り込む。
「っ、お、斧……!?」
「一体どこから……」
「……てけ……」
「「はっ?」」
2人が一気に声のする方を向くと、そこには熊の皮を被った、背の高い人型の生物がいた。
「……てけ……出てけ……出てけ……!!」
「ひぃっ!?」
「やっ、やべぇっ、逃げるぞっ!!」
2人は持っていた荷物を全て投げ出し、そのまま山から逃げ去っていく。人型はその姿を見届けると、熊の皮を脱ぎ去って大きなため息を吐く。人型は、大柄な女性だった。
その女性に「おい!」と声を掛ける男性がいた。
その男性はイノシシの頭を持ち、もう片方の手で女性の頭にゲンコツを振り下ろした。
「いっ」
「アキラ!!誰も傷つけんなっつったろ!!」
「だってアイツら!」
「だってじゃねぇ!何回言ったら分かる!お前の力は傷つける為だけにあるんじゃねぇって!」
「っ……」
悔しそうに握り拳を作るアキラ。
その姿を見かねた男性は、視線を地面に戻して、どこか辛そうな表情を浮かべた後、表情も見せずに歩き出した。
「……戻ったら猟銃の特訓だ」
「……おう」
強くならなくては。
強くなければ、守りたいものも守れない。
それは、弱肉強食のこの世界には、あまりにも当たり前で見落としがちなものだった。
そうしてかつて英雄と呼ばれた彼女は、また山奥へと消えた。
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