End of Line 【登坂広臣】 (ページ9)

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…

あの日から数日

まだ、歌えたんだ…

自分に驚きながらも、醜く執着しているみたいで苦笑いしてしまった

店内にいる2人のお客さま

週に一度いらっしゃる深く帽子を被った男性と、近くのバーのマスター

本を読んだり、黙々とケーキを食べたり。

ここカフェの時間は、他よりもゆっくりと流れている

砂時計を逆さにして、サーっと落ちていく砂を眺めた

「ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

『いつもありがとうございます』

またくるよ

微笑んで帰っていったマスター

下げられたカップとお皿を流しに入れた。

あのお客様…

珍しいなあんなにゆっくりしてるの…。

なんとなくふとそのお客さまをみていたら、パタンと本を閉じ、深く被っていたハットを外した

…いま外すの？

今まで1度も外してなかったのに…

なんとなく気になりながらも、お皿を洗っていた

「蘭堂さん」

優しく名前を呼ばれて、え？と再び視線を送ると、パチリと目が合った

『ぇっ、』

「どうも…」

気恥しそうにペコッと頭を下げたのは、
あの日、わたしの問題行動をみつけた登坂さんだった

手に持っていたスポンジをポトリと落として固まったのを見てくくって笑った

『ほんとに来てくださってたんですね…』

「はい。あの日のマフィン、凄く美味しかったです」

『ふふっ、ありがとうございます』

そう笑った彼の手元には、あの日と同じマフィンが置かれている

静かに紅茶を飲む彼は、すごく絵になっていて目が釘づけになった

「…そんなに見られると緊張、するんですけど…」

『！！すみません…』

イタズラに笑って、ウソですすみませんなんて、ズルいヒトだ。

「歌うの、好きなんですか？」

マフィンにフォークを刺しながら、なんの気なしにそう聞いた登坂さん

自然と握っていたスポンジに力が入る

『……好きじゃ、ないです』

あぁ、こんな当てつけのような答え方

アーティストの彼に失礼だ…

「そうなんですね」

登坂さんは優しく微笑んで、またひと口マフィンを口に運んだ

『失礼な事、言ってしまって…』

「ふっ、そんな事ないですよ」

口の端をあげてイタズラに笑って

「今度、俺の歌聞きに来てください」

なんてイジワルをまた口にした

…