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テツヤさんが通うお店のオーナーだと言われた彼女は、俺も足繁く通うカフェの人だった。
透明感っていう言葉がピッタリの彼女は、白いワンピースを着ていて、儚さに拍車がかかっていた。
自分の立場を考えると、声をかけように掛けられなくて通うだけだった俺にとって今世紀最大のチャンスだった。
『ら、蘭堂Aと申します…』
ぎこちなく頭を下げた彼女は、一度も俺と目を合わせることなく、それでもまっすぐこちらをみていた
ここまで連れてくるってことは、テツヤさんは相当信頼してるんだな…
いそいそとスタジオを出てしまった彼女。
追いかけることは叶わず、諦めてマフィンを口にした
「……うっま」
普通のなんてないマフィンかと思いきや、中からとろりと出てきたベリーソース
甘すぎないから、これから長くなるだろう会議を乗り越えるにはちょうどいい差し入れだった
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思ったより、簡潔に済んでしまった会議
撮影だと言っていたパフォーマー達と別れ、隆二と俺は歌って帰ることにしていた。
「…?」
呑気に携帯をいじってる隆二
俺の目は、何故か予約してたはずなのに明かりがついてるレコーディングルームに捉えられた
「ちょっとまってて」
「あーい」
おれ、予約ミスった?
恐る恐るドアを開けると
「ッ……」
息を飲んだ
スポットだけがついた部屋で静かに歌っている人
それは帰ったはずの彼女で。
情報が多すぎて、全然処理が追いつかない
でも、確かに分かるのは、こちら側に聴こえるこの声は確かに彼女のものということ。
そして、それは俺らの曲であること。
慌てて、部屋の録音をつけた。
透き通るような声と、儚さ。
上手く言えないけど、俺らと同じ界隈の人かな?そう感じさせる歌い方
静かに涙を流す彼女は、あまりにも綺麗すぎて、吸い込まれるように見ていた
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「蘭堂さんって方向音痴なんだね〜」
呑気な隆二に適当に相槌を打って、ようやく話しかけた自分を少し褒めた。
「隆二、この録音、聞いて欲しいんだけど」
「えー?なになに」
スイッチを押すと、さっきまでの彼女の歌声が部屋に流れ出した
それを聞いて、目を見開いた隆二に、何故か自慢げに俺は頷いた。
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作者名:miu:みく | 作成日時:2020年9月5日 7時