End of Line 【登坂広臣】 (ページ22)

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『……私は、歌いたかったんだと、知りました…』

「…歌を、歌われていたのですか？」

その質問に、いままで答えたことは無かった。
過去の出来事を知られたくなかったから。情けない自分を晒したく無かったから。

許されないと思っていたから。

『……はい。』

過去の出来事を、過去の自分を、少しは認めてあげてもバチは当たらないと、そう思いたい。

すると、彼は遠く人がひしめく会場をみながら呟いたを

「 Angraecum(アングレカム) 」

『……気づいていたんですね』

アングレカムとは、ラン科の一種

花言葉は "祈り"

昔の、私のアーティスト名。

彼は、
黙っていて申し訳ありません。卑怯と感じますか？
そう言って名刺を差し出してきた。

そこには、

株式会社LDH 最高顧客責任者 HIRO

『っ、！？』

社長…？とは違うの？

どちらにしろ、偉い方だよね？

「驚かせてしまい、すみません。

ヒロです。テツヤと直人から話を聞いていましてね。一度お話をしてみたくて。」

丁寧で物腰も柔らかなヒロさんに、どことなく安心感を感じて、浮かせていた腰をまた沈めた。

『失礼なのは私です。ペラペラと…申し訳ありません…』

「いえ。こんな私に話しをしてくれた貴方は、僕の想像より、人を怖がるようには感じませんでした」

『…ヒロさんのお人柄です』

それを聞いて、ふわりと微笑んだヒロさん

無理に答えなくて大丈夫です。
その時は答えないという選択肢を選んでください。

そんな前置きをおいて、言った

「歌は嫌いですか？」

登坂さんのような、質問をするんですね

『嫌い、だと思っていました。

けど、逃避している間も私は歌を聞いていました。

彼らの歌を聞いて、まだ流せるだけの涙は持っていました。

歌が、嫌いなのではなく、

歌で自分を伝えて、祈るように歌っていたのに
歌で届けられることには限界があって

当たり前だった存在や環境が自分でもどうすることもできないまま失われることもある、と実感したことが身を切られるよりも辛くなってしまって…

逃げ出してしまった自分が、ひたすら許せなくて嫌いだった、のかなと、思っています… 』

まとめられず、すみません…とこぼした。

胸を張って、わたしは歌が好きだと言うには、まだ時間がかかる…

…