Colorful stories 3 （W.短編集）

7 ページ14

「先輩。好き、」
「ありがとう、」
「めっちゃ好き。」

そんなに近くて、潤んだ目で言うてくる。
そんなにまっすぐ言われると、俺の方が照れてもうて。

「おやすみ。」

背中を向けた。
しばらく眠れなくて、神山が寝返りを打つたびに聞こえる布団の擦れる音だけを聞いてた。






それから週に三日くらい泊まるようになった神山。
誘うのは、決まって俺。だって、一緒にいたいんやもん。
俺、ズルいんかな。
そう思うけど、あの幸せな時間には代えられへんねん。





「先輩。今日は何がええ？」
「唐揚げ！」
「聞いたら8割唐揚げやん！」


そう言いながらも、神山の頭ん中はもう、今日の買い物リスト。

「帰り、スーパー寄ってええ？」

ほら、当たり。








唐揚げにポテサラに、味噌汁に、パプリカのマリネ。
色とりどりでええ匂いの食卓が当たり前になった幸せ。

「今日、お酒飲まへん？」

珍しく神山からのお酒のお誘い。

コンビニで800円の赤ワイン。
ラベルの猫のイラストに神山が一目惚れして買ったら飲みやすくて、以来神山は、コレがお気に入り。
冷蔵庫にストックしてある状態。


お酒を飲むとおしゃべりになる神山。
“あっくん”のこと、
“淳太くん”のこと、
ギター仲間の先輩のこと、
同期の天然イケメンのこと、
甘えん坊の大型犬の後輩のこと。

楽しそうに話す神山に、なんだかちょっとイラついて。

適当に相槌打って、立ち上がる。
神山と買いに行ったワイングラスをシンクに置いて、寝る準備を整えた。




「先輩。」
「ん。」
「好き。」
「ん。」
「くしゃくしゃの笑顔も、スベッた時の照れた顔も、仕事してる真剣な顔も、時々出てくる幼稚園児みたいなとこも、実は真面目で繊細なところも。」
「恥ずいやん。やめてや。」
「先輩、大好きです。」


おやすみなさい、
そう言って、背中を向けた。
その背中に、手を伸ばしかけてやめる。

こんな中途半端な気持ちでふれたらあかん。
そう思ったから。

8→←6

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す