西の探偵が恋をした (ページ8)

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「おはよう。よう寝てたなぁ」

目の前数センチに突きつけられた鋭利な刃先。

なーんも、怖くない。
この子には、人は殺せない。
やって、こんなに綺麗な目ぇ、してんねんもん。

俺にはわかる。
この子は、人の痛みのわかる、優しい子。

「兄ちゃん、もう大丈夫やで？」

何言うても、人は急には変わられへん。
やから、とにかくまんまの俺で笑いかける。

「ここ、俺ん家。怖いこと、何もないからな？」

下唇をグッと噛んで、
それでも堪えられなかった涙が、ボロボロと流れ始めて、

ナイフの柄をこちらに向けてベッドに置くと、戦闘体制をようやく解いてくれた。

枕に顔をうずめて、その涙を隠そうとするから、

肩を抱いて体を起こす。

「大丈夫、大丈夫、」

ゆっくりゆっくり、背中を摩る。

「うぅ、、っ、っ、」

頭を俺の胸に預けると、
背中にしがみつくように腕を回した。

「おれ…」

胸の中で、くぐもった声を出す。

「大丈夫やで？」
「かえりたくない、」
「ええよ？ここにおり？」
「…ええの？」
「ん。ええよ？」

顔を上げると、
安心したように、涙でぐちゃぐちゃの顔でふわりと笑う。

恋に堕ちた、瞬間だった。