西の探偵が恋をした (ページ29)

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「…帰ってきても、いいですか？」

「俺、みんなといたいです」

「しげさんと、いたいです」
「俺らは、君の家族やない」

突き放す。
親に大切にされていた。その事実は、神ちゃんにとって、どんなに大きかったか。
さっきの顔、その真っ赤な目を見たらわかる。
お母さんだって、警察の知らせを聞いて、今どんな気持ちでいるか。
俺なんかには想像もできない。

「お母さん、待ってるんちゃうん」

思ったよりずっと冷たい声。
けど、これでいい。

神ちゃんには、神ちゃんの幸せを。
本来あるべき形の幸せを。

「はい。母に言うて来ます。大切な人に出会えたって」

「その人といたいって」

「もちろん、母も大切にします。やから」

「いってきます」

いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべて、出ていってしまった。
最近買ってやったスマホすら、応接台に置きっぱなし。帰ってくる気ぃ、満々で。

「完敗、やな」
「神ちゃんの幸せは、神ちゃんが決める。やもんな？」

事務所に、笑いが戻る。
俺だけが全然笑えてへんのが悔しいけど。

「よかったな、しげちゃん」

ガッチリと肩を抱かれる。右にハマちゃん、左に照史。みんな、嬉しそうに笑ってる。

そんなん見たら、余計に涙が止まるわけない。