Colorful stories 14 （W.短編集） (ページ27)

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赤side

キャップ目深に被って、シャージのチャックを上までびっちり上げれば、周りの目からようやく解放された気がして。
腕を組むと、目を瞑る。

今日も疲れた。

まだ振り入れは苦手。頭も体もくったくた。
シャワーを浴びてスタジオを出たからかサッパリした体に、揺れる電車。
すぐに夢の世界に誘われた。

いい夢を見てる気がして…
すごく幸せな何かに包まれてる気がして…
まだ夢の中にいたい気持ちと、寝過ごしてへんか心配な気持ちと。

寝過ごして帰宅が遅れるのが最悪のシナリオ。渋々目を開けると、降りるのよりまだ3駅手前だった。
まぁしゃあなし。とは言え、また寝れば今度こそ寝過ごすやろう。
マスクの下で大あくびして、それでも目を瞑るのは我慢して。

眠ってる間にずり落ちてたらしい。腰が痛いから座り直したい。それなのに…肩には、頭。
お隣さんも眠っているらしい。
俺と同じ真っ黒の、だけど俺と違う柔らかい髪が、時々ほっぺをくすぐる。その度にいい匂いに包まれたような感覚。
何なん、これ…
まるでミルクみたいな、優しい匂い。
めちゃくちゃホッとする、落ち着く匂い。

カクン

船を漕ぐと、目が覚めたらしい。

「ぇ」

聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言うと、状況を把握したのか分かりやすく慌てた様子。