このリングに願いを込めて (ページ6)

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「それ、晩ご飯ですか？」

「あ、深夜の飯テロに屈しました？笑」

おしゃべり好きらしい。
口の端にチョコつけて、よく動く口。子どもみたいで、かわいらしい。

「んーん。小腹減っただけ」
「わかります、なんで夜ってこんなにお腹減るんですかね？」

ツナマヨおにぎりとからあげの美味しいこと。
脂質と糖質って、どうしてこんなにうまいねやろ。
夕食食べる気せえへんかったのが嘘みたいに、みるみる平らげてしまう。

「んま」

「あ〜！うまっ」

何回言うん？笑
食事制限明けの俺よりうまそうに食うやん。
隣では、神山くんがほんまに幸せそうにアイスにかぶりついている。

「神山くんは学生さん？」
「はい、そこの大学の2回生です」
「はたち？」
「まだ19です」
「バイト、忙しいん？」
「賄いめっちゃうまいんです！店長もめーっちゃ優しくて、最高です」

答えになってないやんけ、
なんてつっこむ気のなくなる笑顔。
ほんま、癒されるってこういうこと言うんやろなって。

「偉いなぁ、神山くんは。勉強もバイトもあんねんなぁ」
「大毅さんは社会人ですよね？」

「大毅さんの方が、ずっと偉いです」

「仕事するって、すごいなぁと思います。俺はまだまだ学生でいたいです。笑」
「せやで？楽しまな！」

経験したことない大学生活。バイトだってしたことない。
ボクシング漬けの生活を送ってきたから。
羨ましさ半分、微笑ましさ半分。

アイスも無くなったのに、結構長い時間話してたらしい。神山くんの手には、裸になったアイスの棒が握られていた。

「また…会える？」
「へ？」

立ち上がりかけていた神山くんを引き止める形になってしまった。

「いや、あの…また話せたらなって。あ！アイス奢るからさぁ、また来てや！」

必死な俺、たぶん彼から見たらめちゃくちゃ滑稽やろうな、なんて後悔してたのに。

「アイスはいりません。大毅さんとしゃべりできるなら、また会いたいです」

はにかむように笑ってくれる。

木曜日の24時過ぎに待ち合わせ。
名残惜しいのは隠して、約束を頼りに手を振った。

土日もなく練習に勤しむ生活をしてると、曜日の感覚なんてない。何かを、誰かを待ち遠しく思う気持ちなんて、ものっそい久しぶりな気がして。

あと6日、あと6日。
今別れたばかりなのにもう会いたくて、カウントダウン。遠足を待つ小学生みたいやな、なんて一人笑けてしまう。