このリングに願いを込めて (ページ39)

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「やっと笑った」

ほっぺたに手のひら当てると、あったかくて、ほんまにここにおるんやってホッとする。

「早よ、帰っておいで？な？」
「っ、」
「かわいい」
「……っ」

親指でほっぺ撫でて、西陽に染まった顔ゆっくり堪能して。

贅沢な時間。
このままずっとこうしてたいなぁ、
なんて思ってたのに、邪魔したのは、空気の読めない俺の腹の虫。

「はい」

くすくす笑いながら、差し出されたスプーンには、端から滑り落ちそうなプリン。

「最近のコンビニってすごいよな。俺、サラダチキンとプロテインくらいしか買わへんから、スイーツのコーナー見てびっくりしたわ。知らん名前のお菓子とかあるし」
「けど、結局定番がいっちゃんおいしいんですよね」
「わかる！結局いろんな味が出ても普通のチョコ味に帰ってくるよな」

おしゃべりして全然減らないプリンにニヤケながら、それよりもっと残ってる杏仁豆腐。こっちは、長く一緒にいるための作戦やけど。笑

「明日、迎えに来るから」
「練習は？」
「最近がんばってるからオフやって、照史様のお達しやから絶対やで？」

怯えて見せると、ケラケラ笑う。
小さい口大きく開けて笑うそれ、久しぶりに見れて、それだけで心の中でガッツポーズ。

そっとふれたポケット。
渡さなきゃ渡さなきゃと思えば思うほど、言葉が喉につかえて出てこない。
2人の時間が終わってしまうんじゃないかって、どうしても切り出せなかった、ズルい俺。

そのまま、面会時間の音楽に急かされるように、病室を出た。