このリングに願いを込めて (ページ32)

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「そろそろやめた方がええんちゃう？」
「なんで？」

ほら、タメ口なってるやん。笑
言うたら敬語に戻りそうやから、言わんけど。

「顔真っ赤やで？耳まで」
「ほんま？えー、全然酔ってへんのに」

その甘い口調も声のデカさも、ちゃんと酔っ払いなのよ。

“神山くんも酔ってたらええのに”

昨日の不埒な考えが浮かぶ。

「なぁ、神山くん」

テーブルの上に手を伸ばす。

「手ぇ貸して？」
「…なんで？」

その顔に警戒の色。

「昨日…手ぇ繋いだの、嫌やった？」
「嫌やないけど…やめてほしい、びっくりするから」
「お願いやから、ちょっと貸して」

渋々。
テーブルの上で手と手を繋ぐと、その体温が心地よくて、この時間がずっと続けばええなって、引き寄せて願かけでもするようにおでこに当てる。

「なぁ、コンビニのバイトやめれへん？」

「心配やねん」

「神山くんが体壊したら、俺…」
「大毅さん、飲み過ぎですよ」

ビールの缶取り上げて、

困った顔して笑ってる。

「コンビニはあと少し貯まったらやめますから」

「ご心配おかけしました」

すっかり酔いは覚めた顔。

手を解いて両手に缶を持つと、立ち上がった。

よろけた、
そう思った時には遅かった。

手を差し伸べる暇もなく、神山くんはテーブルの向こうに姿を消した。