このリングに願いを込めて (ページ30)

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「それが酔ってるってヤツです、バイト先でよく見ます。フラフラしてる人が店先で寝てたとか、めっちゃあります」
「……」
「聞いてないでしょ」
「聞いてる聞いてる！」

嘘くさ〜ってケラケラ笑ってる。
その笑った顔、好きやなぁなんて見惚れてても、俺の好意は一ミリも伝わらない。

もし今、好きって言ったら…？

肩に感じる体温を味わいながら、想像してみる。

やってみる価値ある？
酔ったせいにしたら、嫌われない？

立ち止まると、びっくりして隣に立ち止まる。

「リバースします？店のトイレ、戻りましょ？」

お酒のせいにしないとできひんチキンでごめん。心の中で謝ると、勇気を振り絞ってその左手を掴んだ。

指先がぴくりと震える。
反応なんて見れない。俯いたまんま歩き出すと、少しだけ遅れて隣を歩くスニーカーが見えた。

小気味いい足音だけが響く。

神山くんも酔ってたらええのに。
そしたらもうちょいがんばれる気がするのに。
それでも手のひらに感じる体温を忘れないように噛み締めた。

　
結局帰ってきたころには酔いもすっかり覚めていた。

それなのに、それだから？手を離すタイミングを失って。
どうしようもなくバクバク鳴る心臓を抱えたまんま立ち尽くす。

「こんなに酔った大毅さん、初めて見ました」

なんて、くすくす笑われながら、自然と離された手に寂しさを覚える。

シャワーを浴びるように急かされて、脱衣所で一人。
座り込むと漏れるでっかいため息。

手の温度は消えてしまったけど、感触は覚えてる。
ふわふわしてる体とは違って、細くて角ばって、俺よりずっと男らしい手。

ほんまに繋いだんやって、酔いが覚めると大胆なことをしてしまったな、なんて。
後悔はしてへんけど。

それなのに、神山くんの中では、ただの酔っ払いのおふざけとして流されてしまったらしい。
せっかくがんばったのに。ちょっとは意識してくれてもよくない？

負け戦、上等！
発破をかけるのは得意やから。

「っしゃ」

冷たいシャワーを浴びると、心までスッキリして気合いが入る。