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「ボクシング……最近楽しくないねん」
ほんとは誰かに聞いてほしかった。
大丈夫、って言って欲しかった。
一度口を開くと、饒舌に語られる不安な思い。
「大好きやったはずなのに、ふと思うねん。
なんでこんなことやってんねやろって、無性に虚しくなる時があって」
「やめないんですか？」
「うん」
「なんで？」
「俺には、これしかないから」
手の甲に手が重なる。
彼の手で覆われた少し歪な骨折跡は、得意の右ストレートの代償。
「そんなことないです。大毅さんは大毅さんやもん」
「俺が知ってるのはボクシングしてない大毅さんですけど、俺、大毅さんとおるの楽しいです」
「やから今日も、すごく楽しみでした。大毅さんに会えるの」
「疲れてるんちゃいます？好きなことでもお仕事ですもんね。きっと、いっぱい嫌なことも我慢せなあかんこともあります、仕事って」
「とか言ってみたりして」
言うたこと後悔してるんか、笑って誤魔化そうとする。
「すみません、学生なのに偉そーに」
「んーん、なんか…救われるわ…」
学生さん相手にみっともないのかもせえへんけど。
そんなんどうでもええくらいに、
そのままを受け入れてくれる神山くんに、愛おしさが溢れ出す。
「大毅さん、お願いがあるんですけど」
ちょっと窺うような上目遣い、ずるいと思う。
彼のお願いなら、何でも聞いてやりたくなる。
それ以外に選択肢があるわけない。
「大毅さんがボクシングしてるとこ、見てみたいです」
「俺、ボクシング見たことないんです。見に行ってもいいですか？」
見せたくなかった。
知られたくなかった。
はずなのに、
「ええよ」
即答する俺、めちゃくちゃ単細胞…
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作者名：7129
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=7129
作成日時：2023年9月19日 19時
