このリングに願いを込めて (ページ13)

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「俺、ボクサーやねん」

帰ってきたのは、
ちょっと間抜けなほど気の抜けた

「よかったぁ」

「悪いことに巻き込まれたんかと思うやないですか…」
「悪いことって、」
「ほら、チンピラに殴られたとか、」
「チンピラって…そんなん」
「よかった、何もなくて…」

手にしたままだったスプーンを差し出されると、勧められるまま雑炊を一口。

「うま…」
「よかったです」

ニコニコ笑ってる神山くんの隣で、ひたすらスプーンを口に運ぶ。

「神山くん…この部屋、」
「すごいでしょ。笑」

「うち、兄弟多くて、大学行けるだけでありがたいくらいで。学費は出してもらってるので、家賃とか生活費は自分で稼いでて」

「やからこんなアパートです。家賃月2万9千円、安いでしょ？笑もっと安いとこあったんですけど、さすがに訳アリ物件は無理でした」

このアパートと、部屋の質素さを見れば、金銭的に余裕がないことは明白。

そんな苦労も見せんと、

いつも笑って、
一生懸命働いて。
こんな俺にも優しくしてくれて。

「バイト、いくつやってるん？」
「…3つ、です」
「大丈夫なん⁉︎」
「はい、丈夫だけがとりえなんで」

彼にもらったものの大きさを思い知ると、無性に胸が締めつけられて息が苦しい。

俺は、彼に何ができるのだろう…

「大毅さん？」

考え込んでたら、また心配そうに覗き込んでくるから…
近いって！無防備にも程があるんやけど！

なんて下心は一旦置いておく。

ちゃんと仲良くなりたいなって。

もっと彼のことが知りたい。
そのためには、まず俺のことを知ってもらいたい。