このリングに願いを込めて (ページ11)

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待ちに待った木曜日はすぐにやってきた。
駆け寄ってきてすぐにその視線は口元を覆うマスク。

「風邪ですか？」
「大丈夫大丈夫！」

しか言われへん。
スパーリングでくらってできた、口元のアザ。
照史のせいやし。
照史がリングサイドで“モンチ”なんて言うから、ビックリするに決まってるやんっ！(初対面で専ニクつけるそのコミュ力羨ましすぎる…！)

この傷見られたら、ボクサーやってことバレてしまう…
かと言って、今日会うのやめるなんてもったいないことはできひん。
連絡先知らないんやって事実にも、こうなって初めて気づいてしまったし。
今日こそは、連絡先を交換する！
実はこれが今日の目標だったりする。

「夜中にこんなんしてる場合やないですよ。明日も仕事ですよね？帰って休みましょ？」
「ほんま、大丈夫。喋ってれば直るから」

引いてくれない神山くんは、どこまでも優しい子。俺が守ってやりたいのに、俺の方が守られてる気がする。

「ほんなら、俺ん家来ます？外よりはいいし、こっから徒歩3分です」

エレベーターなんてない。
ちっさな二階建てのアパート。
鉄製の階段は錆びていて、一歩進むたびにギシギシ音を立てる。
登り終えた真正面のドア。神山くんがニコニコ笑顔で振り返った。

「すごいでしょ。中もほんまに狭いんでびっくりしないでくださいね」

そう言いながらドアを押す。

「ふふ、びっくりしました？笑」

びっくりするなと言ったくせに、びっくりしてる俺を見て、ちょっと喜んでへん？

靴が一つも置いてない玄関は、大人の男が二人立てばよろけるくらいの狭さ。閉めたドアに背中預けて、必死に体幹を保つ。
てか、振り返ってニコニコ笑ってるけど、早よ靴脱いで進んでくれへんと近いって…