このリングに願いを込めて (ページ2)

今日:85 hit、昨日:51 hit、合計:78,954 hit

2 ページ2

「ありがとう、助かった」

そう言うと、返ってきたのはホッとしたような笑顔。

「ごめ、大丈夫やから。もう遅いし。君、学生さんよな？早よ帰り？」

「あっ、水のお金…」

「ごめん、持ち合わせないんやけど…またここ来る？」

今まで具合悪いと思ってたヤツが一気にしゃべったからか、目の前の彼はキョトンとしてる。

「ふふ、大丈夫そうでよかったです」

「お疲れですか？」

「今日はゆっくり休んでくださいね」

そう言って、
くしゃりと笑った顔から、目が離せなくて…

彼の穏やかな笑みと優しい声は、ささくれだらけの俺の心にじわっと染み込んでいく。

綺麗やな…

初対面の男に抱く感想ちゃうけど、
ガッツリ見惚れてる。
もっかいその顔で笑いかけてほしいなんて、アホみたいやけど、そんなこと考えてる。

「あの…さ」
「大丈夫ですよ、お水代ぐらい」

「じゃ、お兄さんも早よ帰ってゆっくり休んでくださいね」

なんとか繋ぎ止めたいなんて必死に頭回してるのに、彼は立ち上がって行ってしまう。

「あのっ…！」

振り返った顔。
目が合うだけで、心がきゅっと音を立てる。

「な、名前っ…」
「あ、俺、神山って言います。お兄さんは？」
「し…大毅、」

苗字を言おうとして、口を噤む。

“シゲ”
ボクサーとしての愛称は知られたくなくて。
仮面を被った俺を、なぜかこの子には見られたくなくて。