記憶 (ページ10)

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『今、出て来れる？』

土曜の昼前、メールの通知音がなった。
もしかして…！
部屋の窓から外を見ると、玄関のとこに立ってるしげ。

目が合うと、しげが小さく手を振った。

転げ落ちそうになりながら階段を降りてドアを開くと、

「神ちゃん、」

「誕生日、おめでとう」

差し出したのは、小さな紙袋。

「え、」

「開けてええ？」
「全然大したもんちゃうから！」

「謙遜とかやなくて、フリでもなくて、」

「ほら、あんまり重いのはなぁとかさ、」

「付き合った…ばっか、やし」

「めちゃめちゃ悩んで」
「しげ！」
「…ん」
「ふふ。俺、なんでも嬉しいよ」

「けど、俺のために悩んでくれたんが、一番嬉しいかも」

言うた後、結構恥ずいこと言うてもうたなって急に顔が熱くなって…

「へへ。見てもええ？」

返事を聞く前に、紙袋に手を突っ込んだ。

「うわ…」

出てきたのは、透明の袋に包まれたクッキー。

大きめの星で型抜きされてて、手作りやなって一目でわかる。

「あの…さ、姉ちゃんに教えてもらって作ってん」

「初めてやから、なんかうまく行かへんくて、」

「けど、味は大丈夫やったから！」

「神ちゃん、甘いもん好きや言うてたし、けど、これが俺の限界やってん、」
「今、食べてええ？」

「どーぞ、」

急に無口になったしげを前に、
星型のクッキーを一つ、口に放り込む。