記憶 (ページ8)

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特段目立たない。
速くもない、才能もない。
そんな俺が、高校から陸上始めて、小中からやってるやつには勝てるわけがない。

けど、
走ってる間は無になれた。

感じる風が気持ちよくて、

とにかく走るのが好きやった。

「神山くん」

朝練の後、着替えて校舎に向かうところで、突然名前を呼ばれた。

振り返ると、そこにはクラスメイトの重岡くん。

喋ったことはない。
挨拶は交わしたことあるくらい。

そのくらいの関係の彼に声をかけられる覚えは全くなくて、

「あ、おはよ」

返せたのは、間抜けな朝の挨拶だけ。

「俺、神山くんのこと好きです」
「…へ？」

「好き、？」
「うん。愛してる、の好き。ラブ」
「はぁ」

突然の告白。

男なのに？

なんで俺？

好きって…そういうやつ⁉︎

頭にいっぱいのハテナ。
半ばパニックの俺を見ても変わらずニコニコ笑ってる重岡くん。
じーっと見られてるから、なんか恥ずかしい、

「あの…さ、」

「なんで俺なん？」

素直に疑問に思った。
派手でもない。目立つわけでもない。

平々凡々を絵に描いたような俺。しかも男。

やっぱり理解できなくて…

「好きって…その、どこが…？」
「いつも見ててん、走ってる神山くん」

「綺麗なぁ、楽しそうやなぁって」

「そのうち空飛べるんちゃうかなって、」

「一番楽しそうに走ってるから、走ってる神山くん見ると、俺まで楽しくなって」

「気づいたら、好きになってた」

見ててくれた人がいた。

認めてくれた人がいる。

重岡くんの言葉は、俺の心のど真ん中に突き刺さった。

「付き合ってくれませんか？」

気づけば、流されるように頷いてた。