記憶 (ページ7)

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「あ」

俺の手をニギ二ギしてた手が、止まる。

「これ、ギターのたこやんな」
「うん」
「弾いてや」
「嫌」
「なんで？」
「……」

浮かんだメロディーは、

アイツのピアノに合わせて、二人で奏でたあの曲。

あの音、あの声を思い出したら、絶対泣くに決まってるもん。

「泣いてええから」

人の心読んでんのか？ってくらい、ナイスタイミング。
大毅さんって、そういうとこがある。
不思議な人。

「神ちゃんの大事な曲、聴かしてや」

大毅さんが言うと、叶えてやりたくなるから不思議。

「二年振りやから…下手でも笑わんでな」
「うん。絶対笑わん」

エクボ浮かべて、ニコニコ俺の音を待ってる。

弦も一本切れて、
音もズレて、

それでも、俺の中にはあの時の音が流れる。

あの甘い歌声が流れる。

ギターの音に合わせて歌う、少し掠れた大毅さんの声。
不思議と、アイツの声に重なる。
見た目も声も、
全っ然似てないのに。

アイツの笑顔、ピアノ弾いてる楽しそうな背中。

眠るような最期の顔。

思い出なんかやない。
けど、どんなに悲しくても苦しくても、一つも忘れたくない。
どれも大切な

“記憶”

「ありがとう。分けてくれて」

「悲しみも、苦しみも、つらいのも、」

「俺も、持つから」

「俺、もっと神ちゃんのこと大切にするから」

ギターを濡らすわけにはいかないと堪えていた涙は、あっけなく決壊して溢れ出した。

「大毅さんのアホぉ、」

「泣かすなや…」
「我慢せんの。泣きなさい」

「全部さ、俺がはんぶんこしたるから」

背中をさすってくれる手が優しくて、思わず胸に顔をうずめた。

「ほんま、？」
「うん」
「はんぶんこ…してくれるん？」
「うん」
「重いで」
「上等」
「暗いで」
「任しとき？」

スゥっと息を吸うと、もう喉が詰まって泣きそう…

大毅さんに背中を撫でられながら、
アイツとの日々を初めて口にする。