記憶 (ページ38)

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「泣かんでや」

「神ちゃん」

きっと大毅さんが欲しいのは、“ごめん”やないから。

「箸巻きも食べたい」
「ええなぁ」
「でもやっぱたこ焼きかも」
「関西人やしな」
「わたあめも」
「似合う。いっぱい買うたる」
「一個で腹一杯や」

笑い合うのに、止まらない涙。

「帰ったら、またいっぱいキスして」
「唇が腫れるまでしたる。朝まで止まらへんかも」
「ええよ。けど…」

「大毅さん、そろそろ着替えや？」

視線を下にずらすと、上下真っ黒なTシャツと短パン。
こうして話を変えないと、今すぐに下駄を脱ぎ捨ててしまいそうやから。

「夢、ぜーんぶ叶えたるから」

「ほら、早よせな置いてくで！」

バッグを手に玄関に向かえば、泣きそうな声をあげて、向こうでバタバタと音が聞こえる。
ファッションセンスも残念！変わらへん。笑

にこにこ走ってきた大毅さん。

「へへ、お待たせ」
「行こ」
「おん！」

手を出すと、子どもみたいに笑って強く握った。

置いてなんて行くわけない。

ずっと一緒がええ。
ずっと隣がええ。

ドアを開けると、
もう遠くにお囃子の音が聞こえた気がした。

fin.