記憶 (ページ28)

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21＊ページ28

この日が一生来なければいいのに。
祈るように過ごした毎日。
それでも別れの日は、やってきた。

「この液が無くなる頃に、眠るように」

「苦しくありません」

感情もなにもない、看護師さんの言葉。
返事も、頷くことさえもできないのに、しげはただ穏やかな顔をしてる。

点滴が一滴一滴落ちる度に、さよならが近づいてくる。

何度、そのコンセントを引っこ抜こうとしたか。
何度、その管を引きちぎってしまおうと思ったか。

全ての死に、“尊厳”を。

わかる。わかるよ？
けど、残される方はどうしたらいい？
早いか遅いかの違い。
結果はあまり変わらないのかもしれない。

けど、大切な人と、一瞬でも長く一緒にいたい。
そんな些細な願いさえ、叶えることは許されへんの？
それを口にすることさえ、我慢せなあかんの？

白か黒かなんて、はっきり言えるわけない。
実は世の中、そんなことばっかりなのかもしれない。
そんなん、知らないままでいたかった。

しげの手が伸びてきて、俺の表情を読み取るように顔をなぞる。
その手のひらに、嘘の笑顔浮かべる。

心と体がバラバラで、壊れてしまいそう。

もう今壊れて消えてしまいたい。
しげと一緒にいけへんかな…

自分を偽ることが大人になるということなら、
俺は大人になりたくない。

けど、

ゆっくりとゆっくりと、最期の時間は迫ってくる。

「かみ、ちゃ」

「もう、ねむぃ」

この瞼が閉じたら、もう二度と開くことはない。